子供の頃から、好きな食べ物は?と聞かれると、”エビ”と答えていた。エビの天ぷらもエビフライも好きだし、お寿司のネタでもエビが好きだ。家族は皆、私の好物は ”エビ”だと知っている。しかし、これは私自身の意思ではなかったということが、数年前に発覚した。
ある時、親類の法事で兄弟が集まり、食事をしながら他愛もない話をしていた。お膳にエビがあるのを見つけた兄が 「エビはお前の好物だから、食べていいよ。」 と言ってくれた。兄たちは、エビより好きな物があるので、私はそちらは遠慮をしてエビをもらう、これは子供の頃からだった。
そして、いつも私の好物を譲ってくれる優しい兄たちに「ありがとう!」と言って、エビを食べ始めた時、兄が爆弾発言をした。「子供の頃から、親父が法事とかで貰ってくる折り詰めで、お前はエビ、俺達(兄二人)は鶏モモ肉と決まっていたけど、エビを食べさせていたのは、鶏モモ肉の競争率を減らすためだった。」と言ったのだ。
父親は付き合いの多い人だったので、毎週のように法事やお祝い事に出かけていた。たいてい会食が用意されていたようだが、焼物や煮物は折り詰めされていたので、父は持ち帰っていた。その中で一番人気は鶏モモ肉だった。何故か、1本の鶏モモ肉を3人で分けるということはしていなかったようだ。はっきりとした事は覚えていないが、3回に1回順番で食べる、またはジャンケンで勝った者が食べていたのだろう。
そこで兄は、競争率を減らすために「エビはお前の好物だから食べていいよ。」と、私にエビを与え、あとは男二人で鶏モモ肉を順番に食べる、ということを考えついたのだ。つまり「エビが好物」というのは、自分の意思ではなく、兄が決めたことだったのだ。
小学校の”けんこうカード”という物が手元に残っていた。これは健康状態を中心に、担任と家庭で連絡をするものだが、ここに”すきなたべもの”という項目がある。1年生では”海苔・ハム・チーズ・刺身”と母の字で書かれている。2年生では”のり・ハム・チーズ・さしみ・えび”と書いてある。きっと小学1〜2年生くらいから、兄にエビが好物と言われていたのだろうと予測される。
今となっては笑い話だし、先日みんなで集まって居酒屋さんに行った時にも、エビが出るとその話題になった。「私は毎回エビを食べていたから、いいんだ。」と言い返したりしている。これは今後も続くだろう。それにしても、私は小学生の頃、”のり”が好きだったようだ。子供の頃の記憶というのは、曖昧なものだ。