消費増税前に

この週末、子供たちは何が何でも買ってもらおうと必死なり、まるで人生のすべてを賭けるがごとく親に最後の説得を試みているに違いない。

買ってほしいものは、もちろんスマホだ。

来週から高校生になるのを機に、そしてあと数日で消費税率が引き上げられるのを口実に、さらには 「みんな持っている」「持っていないのは自分だけだ」 という殺し文句を武器に、最終的には勉強に役立つアプリが多数存在するという強引な口説き文句などを駆使していることだろう。

家族で乗り換えれば何万円ものキャッシュバックが得られるので本体価格は実質的に無料であることなど、パンフレットを熟読して学校の授業よりもはるかに猛勉強して説得し、そのキャッシュバックが問題視されているので近いうちに規制される可能性があるので今が最後のチャンスだと、普段は興味を持たない社会情勢にまで踏み込んだ話題も取り込む巧妙な説得工作を繰り広げているのではないだろうか。

思いのほか売れ行きが好調な家庭用ゲーム機のプレイステーション 4も、4万円という価格帯なので増税で 1,000円以上の差がでてしまうこともあり、この週末に慌てて購入したり必死に親を説得する子どもがいるかもしれない。

我家でも増税前に何か買っておくべきではないかと検討してみたところ、その第一候補はブルーレイ(BD)レコーダーだった。

海外ドラマを見まくっている我が家にとって BDレコーダーは必需品であるが、ここのところ動作が怪しく不安を抱えながらの使用を余儀なくされている。

再生中に映像も音声も止まり、そのまま勝手に再生を中止してみたり、CMをカットする編集作業中にフリーズして本体をリセットしなければならなかったり、予約した録画が実行されなかったりと不具合が多い。

いつ動かなくなるかという不安にかられながらの生活は精神衛生上もよろしくないので、ここは思い切って購入すべきだろうという結論には達してはいたのだが、どうも踏ん切りがつかないまま今日に至ってしまった。

家電製品は値崩れが激しく、増税による 3%など吹き飛んでしまうほど価格が下がることが多いので慌てる必要性はまったくと言っていいほどない。

さらに家電量販店も増税後は客足が遠のくので一段と値下げをしたセールを展開する可能性が高く、むしろ慌てて買わないほうが得策であると判断した訳だ。

次の候補は電動歯ブラシで、こちらの場合はいわゆる電池持ちの問題が生じている。

使われている充電池がメモリー効果と経年劣化によって蓄電量が少なくなり、二人続けて歯磨きするとパワーが落ちてブラシの動きが悪くなってしまうようになった。

これはそろそろ買い替えどきだと判断し、家電量販店で色々と見るところまではしたのだが、まだ購入に至ってはいない。

電動歯ブラシを使い続けて長くなるので、今さら手磨きには戻ることはできないのだが、ただ一つの難点は交換用のブラシがびっくりするほど高いことだ。

本体を低価格で販売し、付属品、消耗品で収益をあげようとするのはパソコン用プリンターやゲーム機の構図と変わらず、3,800円くらいで売られている本体の交換用ブラシが 2,000円近かったりするのが当たり前のこととなっている。

そこで、まずは交換用ブラシを売っているコーナーに行って価格を比較すると、何と一番人気のブランドであるパナソニックのドルツという製品のブラシが数百円で売られていた。

本体価格は 7,000円以上と他社より少し高いのだが、圧倒的に安いブラシの買い替えを思えば 2-3回の交換で元がとれてしまう。

これは間違いなくパナソニックのドルツで決まりだというところまで意見がまとまり、あとは購入するだけという段階にまでなっているし、AV機器と違って値崩れの少ない製品であるため買うなら今だという絶好のタイミングでもある。

が、しかし、それが分かっていてもグズグズしたまま今日になってしまった。

本体と交換用ブラシ 2組くらいをまとめ買いしたとしても価格は 1万円程度であり、増税後との値差は 300円程度のことなので、そこまで必死になる必要性が感じられない。

そして、いくら値崩れがないとは言え、家電量販店が 10%OFFや 20%OFFのセールを実施すれば 300円をはるかに超える値下がりが期待できる。

次の候補は電子レンジなのだが、実はこのレンジ、2008年にガラスでできたターンテーブルを割ってしまい、それ以来ずっとガラスが乗っていた鉄製の部品に温めるものを置いて使っていた。

いくら何でも買い替えどきかと思わないでもないが、我家の場合は温めなおしでの使用が主であり、調理器具としての使用頻度は決して高くない。

高度な活用をするでもなく、単に温まれば良いのであればターンテーブルのガラスがあろうがなかろうが大きな問題ではなく、どうしても新しいものがほしいかと聞かれれば答えは否である。

その他、コンベクションオーブンも購入検討対象となったことがある。

コンベクションオーブンとはオーブン機能はもとより、トースターの役目も果たせば最近流行のノンフライヤー的な使い方もできるという優れもので、価格も 8,000円前後と魅力的だ。

しかし、それも増税後との値差は 240円でしかなく、他のものと同じく量販店のセールがあれば簡単に吸収されてしまう金額なので、今の段階で駆け込み購入するほどのものではない。

そんなこんなで色々と考えないでもなかったが、増税前だからといって実際に購入したものはないし、トイレットペーパーや洗剤などの日用品、缶詰などの長期保存食も買いだめすることはしなかった。

ただし、酒だけは 20リットルほど在庫しているが・・・。

性善説

どうも自分はお人好しなのか、単細胞なのか、人が何かをしでかした場合、その人が結果的に悪人であっても最初はその悪行を信じることができず、誤報であるか、本人の思い違いではないかと思ってしまう。

それは時として世の中の、いや、自分にとっての常識から逸脱し、そんなことがあるはずない、そんな非常識なことがあるはずがないという、完全に理解不能なことが起こるからだ。

かなり以前のことになるが、故横山ノック氏が平成 11(1999)年 4月、大阪府知事選の期間中、運動員の女子大生に対してわいせつな行為をしたとして告訴されて知事を辞任し、翌年に有罪判決を受けた。

この事件、失礼ながら当初は女子大生の狂言か反対陣営の策略的な中傷だと思い、単なるスポーツ新聞、週刊誌ネタ的な騒動であろうと思っていたのである。

なぜならば、世の中の、いや、自分にとっての常識からすれば、まさか選挙期間中に、スキャンダルが致命傷となって落選の危険性がある選挙期間中に、それも自陣営で自分のために一緒に戦ってくれている女子大生に、しかも全国区の知名度があって府知事を務め再選を目指している人が、さらには選挙運動中の選挙カーの中でそんな暴挙に及ぶなど、にわかには信じられないし、そんなことがあるはずがないという思考パターンでしか脳が働かなかったからだ。

そのような状況でわいせつ行為をする理由も意味も動機も分からない。

しかし、自分の常識など通用せず、見事に裏切られ、横山ノック氏は裁判で大筋を認めて懲役 1年 6カ月、執行猶予 3年の有罪判決を受けた。

その時、世の中には自分の理解を超えたことが起こりえるのだと自覚したはずなのだが、それから 7年後に発覚した小室哲哉氏の 5億円詐欺事件も最初は耳を疑い、やはり誤報かスポーツ新聞、週刊誌ネタ程度のものであろうと思ったのである。

なぜならば、飛ぶ鳥を落とす勢いだった小室氏にはピークを超えたとは言え莫大な資産があるだろうし、著作権による印税収入だけで一生遊んで暮らせるはずなので詐欺などという犯罪に手を染める必要などあろうはずがないという思考パターンで脳が働いたからだ。

きっと間違いだろうし、それが事実だったとしても小室氏本人ではなく、周りにいる良からぬ考えの持ち主が小室氏の名を語って金をだまし取ったに違いない。

詐欺といえば言葉巧みに人をだまし、その嘘を信じこませなければならない犯罪だが、小室氏には口が達者とか雄弁とかいうイメージがなく、むしろボソボソと話す印象だったので口八丁で人から金をだまし取ることなどできないだろう。

つまり、小室氏は加害者ではなく名を語られた被害者ではないかと思えて仕方がなかった。

しかし、この件に関しても見事に裏切られ、自分の常識を超えたところで事件は起こっており、常識を超えた金遣いで小室氏の資産は枯渇していたどころか、だまし取った金は借金返済に充てていたということだ。

これは人間の本性は基本的に善であるとする性善説を捨て、人間の本性は基本的に悪であるという性悪説で物事を見なければならないのかも知れないと思い知らされた一件だった。

それでもやはり自分はお人好しなのか単細胞なのか、大きな事故、事件にまで発展した JR北海道の問題も、最初は不運な事故が重なっただけであり、次から次へと発覚する問題も監視の目が厳しくなったゆえの出来事であろうととらえていたのである。

飛行機事故があると、どういう訳だか事故が続き、整備不良などが次から次へと発覚する負のスパイラルに陥ることがあるので、JR北海道の件も同様であろうと最初は思っていたし、事故が続いたり部品の脱落や出火があったり運転士が薬物依存だったりドアが開いたまま走行したりという単純ミスも JR北海道に向けられた厳しい目が粗探し的に問題を見つけ出しているからだろうと思っていた。

むしろ、あまりにもトラブルが続く JR北海道を気の毒に思い、もしかしたら呪われているか JR北海道という企業そのものが大殺界期間中なのではないかと同情すらしていたほどだ。

そして、乗客の安全を最優先しているはずの JRが、貨物を安全確実に届けるはずの JRが、そんなずさんな管理をするはずがないし、それが常識だと心の中では思っていたのだろう。

ところが、またしても期待は裏切られ、自分の常識が世の中には通用しないと思い知らされることになる。

調べが進むうちに問題が出るわ出るわの大騒ぎで、もうこの文書では列挙が不可能なほどの数の不備やトラブル、隠ぺいが目白押しの大安売りの大放出状態であり、すでに JR北海道は貨物事業会社の体をなしていない。

ここまでずさんな管理体制で、よく今まで事故が起きなかったと不思議なくらいだ。

こうも期待を裏切られ続けたのだから、次からは世の中に起こる理解に苦しむ事件も甘んじて受け入れたほうが良いのかもしれない。

そんなはずがないとか、普通はあり得ないだろうとか、常識的に考えると信じられないなどと思っても、どうせ人間の本性は基本的に悪なのだろうから。

ワクチン後進国

先進国の一員である我が国日本も、ことワクチンに関しては後進国だ。

第一にワクチンの製造能力が低く、新型インフルエンザが流行した場合に国民が接種するワクチンを自国でまかなうことができず、輸入に頼らざるを得ないほどの脆弱ぶりである。

第二に日本ではワクチン接種を義務化していなかったり無料化している数が極めて少ないため、他の先進国はおろか、南米大陸でもとっくに絶滅、撲滅させている麻疹(はしか)が定期的に流行し、重い後遺症に苦しんだり命を奪われたりする子どもが後を絶たない。

そして、それぞれには大きな理由がある。

それは日本人の価値観、国民性によるものであり、自業自得の感が否めない。

その責任の端緒であり、主悪の根源とも言えるのはマスコミで、その情報を自分なりに解釈もせず鵜呑みにしてしまい、右にも左にも大きく振れる国民性によって増幅し、極端な反応を示してしまうのが要因だ。

ワクチンとは異なるが、2007年頃に大騒ぎしたインフルエンザ治療薬である 『タミフル』 に関する報道が良い例で、当時の雑感にも書いたがタミフルを処方された子どもに異常行動が見られ、それによって死者まで出たことを連日のようにマスコミは伝え、副作用の危険性とそれを処方する責任、はたまた薬の製造責任まで問う勢いだった。

しかし、タミフルと異常行動の因果関係が薄いとなると、マスコミは潮が引いたように本件に触れるのをやめ、あれだけ大騒ぎしたにも関わらず適当なデータで見当違いの報道をしたことを詫びもせず、製造元である中外製薬に謝罪もしないままこっそりフェードアウトして何ごともなかったような顔をしている。

近年になって問題視されたのは子宮頸がんワクチン 『サーバリックス』 に関してだ。

2010年 11月から 2013年 3月までに推計 328万人が接種し、このうち計 1,196件の副反応が報告され、うち 106件は重篤だったことがメディアで話題になったが、発症率を単純計算すると副作用を引き起こす人は 0.036%、重篤な副作用を引き起こす人は 0.0032%ということになる。

子宮頸がんは 1年間に約 10,000~15,000人の女性が発症し、毎年約 3,500人が亡くなる重大な病気だ。

そのうちの 70%である 7,000~10,500人はウィスル感染によるものであり、死亡者数は 2,450人となるが、学会で報告された通りに 90%の予防効果が期待できるのであれば年間の感染者は 700~1,050人となって死亡者数も 245人となる。

つまり、ワクチン接種によって 6,300~9,450人が子宮摘出手術を受けたり辛い科学療法を受けずに済み、2,205人の命が救われる計算だ。

我が娘が重篤な副作用が出たら・・・、生活に支障が出るほどの痛みやしびれに襲われてしまったら・・・などと考えてしまい、ワクチン接種に二の足を踏むのは理解できないこともない。

しかし、が、しかしである。

先に述べたように重篤な副作用を引き起こす人は 0.0032%にすぎない。

確かに 0%であるに越したことはないが、年間に交通事故にあう確率の 0.007%の半分に過ぎないではないか。

そして、たとえ重篤な副作用に襲われたとしても 65%の人は治療によって改善しているので、本当に重篤で生活に支障をきたしている人は 37人(0.001%)だ。

0.001%と言えば 10万人に 1人という確率であり、自分が先月の中旬に受けた大腸がんの内視鏡検査による死亡率と同じ値である。

それで死んでしまったら、それで副作用が出たら仕方がない、不運だったと諦めのつく数値なのではないだろうか。

品質にしても安全性にしても日本人は厳しすぎる。

何かがあってはいけない、何かあったら困る、何かあったら誰が責任を取るのか、何かあれば誰がどうやって補償するのかという議論に終始し、わずかでもデメリットがあれば、どんなに大きなメリットがあろうと先に進まないどころか後戻りしてしまう。

厚生労働省は子宮頸がんワクチンの接種を強く推奨する立場から、副作用問題の発覚によってそれを中止するに至った。

当初、その措置を妥当としていた日本産科婦人科学会が、ここにきて一刻も早い推奨の再開を求める声明を出したのは、同会がマスコミに振り回されていることを如実に物語る。

ヒステリックなマスコミや国民の反応に、それこそ過剰反応して右往左往してしまうのが日本政府、官僚の実態で、安全性という名のもとにワクチン接種をおざなりにして必要性を説くこともなく放置し続け、いつまでも病気を撲滅できず麻疹輸出国という烙印を押されている事実を甘受しているのが現状だ。

我が子が副作用に襲われたら・・・。

それは避けようのない不安であることは理解できる。

しかし、子宮頸がんワクチンの例で見たように 1人の副作用をなくすために数千人の命を犠牲にして良いものだろうか。

諸外国では数千、数万の命を救うためであれば、わずかな副作用もやむなしと毅然とした態度で挑み、国民もそれを納得しているが、日本は例え何千人の死者が出ようと、1人たりとも副作用による犠牲者を出すべからずというマスコミの論調や、それに迎合する団体、国民の意見に引きずられるがゆえに病気による多くの犠牲者を出し続けている。

それが冒頭に述べた第二の理由、ワクチン接種を義務化したり強く推奨できないことにつながり、接種率が低くワクチン販売量を見込めないので国内製薬メーカーが設備投資できず、いざという時に供給できないという第一の理由にまで至る訳だ。

マスコミが過剰・異常報道、国民が過剰・異常反応を続ける限り、日本ではいつまでも病気によって亡くなったり後遺症を負う子どもたちや女性たちが減らないことだろう。

想い出の居酒屋 其の拾

想い出の居酒屋 おしながき

2月 25日、いつもの居酒屋で飲んで食べて話して来た。

実は店のママも過去にガンを患っており、親身に話を聞いてくれていたのである。

ところが、そのママがくも膜下出血で倒れたのが先月のことだとマスターは言う。

記憶に新しいところでは料理研究家の小林カツ代さんが、その病気で亡くなったばかりだ。

それでママの姿が見えないのかと、目の前が暗くなりかけた時、
「いやぁ~命は助かったんだけどさぁ」
とマスターが言う。

手遅れになれば命は助からず、助かったとしても上下、または左右や言語が麻痺するという後遺症に苦しむ人が多い。

ママが店に出ていないということは、体のどこかに異常をきたしてしまったのではないだろうかと再び暗くなりかけた時、
「それがどこもマヒしなかったんだよねぇ」
と、マスターが言葉を続ける。

「い、いっぺんに言わんかいっ!」
と突っ込んでやりたくなったが、命にも体にも異常ないのは幸いである。

仕事中に倒れたということだったが、それは突然の頭痛に始まったらしい。

店は昼も営業しており、近所の会社員が昼ごはんを食べに来るのだが、それの準備中にママが座敷に座り込んで頭痛を訴えた。

マスターが様子を見ると、顔色を失い真っ青になって倒れてしまったので慌てて救急車を呼ぶことになったという。

マスターも心配のあまりに顔色を失い、病院に同行して救急治療を終えるのを待ったが、今後のことを考えると目の前が暗くなり、重い後遺症を抱えるくらいなら命が助からないほうが良いのではないかという究極の考えまで頭をよぎったと素直に話してくれた。

しかし、ママは医者も驚くほど奇跡的に後遺症もなく、身体的にも脳も言語にもまったく支障をきたさず 2週間ほどで退院に至ったということで、マスターは
「あいつは化け物だ」
とか、
「殺しても死なん」
などと言っていたが実のところは幸運を喜んでいる。

そんな話しをしていると、退院間もないのにママが顔を見せてくれた。

確かに元気そうではあったが、その言葉は弱々しい。

あんなに大きな声で話し、快活に笑う人だったのに、すぐそばで会話しているにも関わらず聞き取るのがやっとという感じだった。

実はマスターとママの夫婦は年齢差 25という年の差婚だ。

しかも歳上なのはママであって、すでに70歳を超えている。

25歳差と言えば友達のお母さんと結婚して世間を騒がせた元ヤクルトスワローズでベネズエラ出身のペタジーニ選手と同じであり、親子ほども年の違う二人が結婚して前に勤めていた焼き鳥屋チェーンから独立したとき、実のところママが若い男にダマされて金を注ぎ込み、店を持たせてやったのではないかと思わないでもなかったが、二人はいつまでも仲良く店も開店 20周年を超えたところだった。

大きな病気を二度もしたし、すでに体がシンドイと感じていたので今回の病を機に店に出るのを止めようと考えているらしく、マスターもママに無理はさせられないと分かっているので一人で何とか切り盛りしようとしている。

忘新年会シーズンや歓送迎会が重なる時などは一人だと大変だが、人を雇うほど店は儲かっていないと、いろいろ考えることがあって大変そうだ。

札幌に住んでいれば、自分には水商売でのバイト経験もあるので忙しい時だけ店を手伝ってあげることもできるのだが、離れた場所に住んでいるのでそうもいかない。

年に何度も行くことはできないが、また今年の夏の終わりに店を訪れるつもりだ。

無理はしてほしくないが、できれば店で元気に働くママに会いたいものである。

大腸がん検査 その時

先週からの続き ~

大腸がんの内視鏡検査は肛門からスコープを挿入するので、検査のための着替えでは男性用下着にある俗称 『社会の窓』 が尻側についているような構造の使い捨てパンツを履く。

それに着替えてからも便意は止まらず、看護師さんにことわってからトイレに行ったが、検査台に横になって医者の登場を待っているうちに再び模様して再度トイレに。

それでやっと落ち着いて検査を始めることになった。

最初に検査しやすいよう、腸の動きを止める筋肉注射をする。

下剤を飲む前には薬で動きを活発化させられ、直後に動きを止められるというのだから腸もなかなか大変だ。

「筋肉注射ですから痛いですよ~」
などと脅かされながら右肩にうたれたが、最初だけチクッとしたものの言われるほどの痛みを感じることがなかったのは、幼児の頃は喘息持ちで体が弱く、医者から
「まいどさん」
と言われるほど病院通いし、何度も何度も注射されたことによって痛みに慣れてしまったか、痛点がなくなってしまったのだろうか。

そして、医者が
「カメラを入れやすくするためローションを塗りますね」
と言いながら尻に塗ったかと思ったら、いきなり肛門に指を入れられたので
「おおっ!」
と驚きの声を上げてしまった。

子供の頃から便秘体質で、何度か病院で浣腸されたり医者や看護師に指を入れられたりしたが、その時の感覚の記憶はすでになく、大人になってから座薬を入れたことはあるものの、それ以上の大きさの異物が肛門を逆行したことなどないので生まれて初めてに近い妙な感覚だ。

医者が笑いながら
「次はカメラが入りますよぉ~」
と言う。

やはり、その感覚はとても馴染めるようなものではかったが、ぬ゛~と体内への侵入を許すと、もうどうにでもしてくれ~という、すべてを諦めきってしまったような、何らかの悟りを開いたような気になった。

人によっては痛みを感じることもあるらしいが、自分が痛みに鈍感なのか、操作する医者の技術が高いのか何の痛みも感じないままカメラは体内を進む。

途中、
「腸を広げるために空気を入れますね」
と言われ、機械からプシューという音がすると、腸内に空気が入る不思議な感覚に襲われたのだが、それはまるで大道芸人が犬やウサギを作るマジックバルーンが膨らむかのごとく、自分の腹の中で腸が肛門側から胃に向かって順に膨らんでくるのが分かる。

「空気を入れているのでオナラがしたくなったら構わず出してください」
とか、
「今、盲腸を通過しました」
とか、
「もう少しで小腸付近です」
などと説明を受けながら、『どうにでもしてくれ~』 状態は続き、やっと大腸の終わり、小腸の手前までカメラが達した。

そこでモニターをこちらに向けられ、
「これからゆっくり抜きながら見ていきますね」
「途中、説明しますから一緒に見ましょう」
ということだったので自分の腸内を見ながら話しを聞く。

「ここが小腸と大腸の境目です」
などと言われても素人目にはわかるはずもなく、ただ
「はぁ」
という生返事しかでてこない。

途中、カメラの動きを止めて
「ここにポリープがありますね」
と見せられたが、確かにピンク色の丸い突起物がある。

それは 3ミリ以下の小さなもので、がん化もしていなければ、がん化のリスクも小さいということで切除の必要はなく、今後も経過観察するということになった。

医者は言う。

がん化したものは、いかにもガンですっ!といった感じで見かけも黒ずんでおり、形状もいびつなお世辞にも綺麗と言えないものだが、見えているポリープは薄いピンク色でツヤツヤしており、形状もまん丸で綺麗なので何の問題もないと。

その言葉を聞いて安心していると、再びカメラを動かしていた手が止まり、
「右上の方に黒っぽいものが見えますよね」
などと言う。

確かに周りとは明らかに色の違う、ドス黒い影が画面に映し出されており、先ほどの医者の言葉が頭の中をこだまする。

「がんは黒ずんでいて・・いて・・いて・て」
「いかにもガンですっ!・・です・・です・す」
「お世辞にも綺麗とはいえない・・ない・・ない・い」

目の前が暗くなるような不安を覚えた瞬間、
「あの影は肝臓が透けて見えてるんですよ」
などと軽~く言ってのけるではないか。

「それを先に言えーーーっ!」
とか、
「ふ、ふざけるなぁーーっ!」
と胸ぐらをつかんで怒鳴ってやりたい衝動に駆られたが、なにせこっちは肛門からカメラを入れられている身であるため、
「ほほ~、そうなんですかぁ~」
などと適当な相づちをうつしかない。

その後もいくつかのポリープを発見しつつカメラは出口に近づいた。

そして、肛門付近になると医者が
「いくつか痔がありますね」
と言ってカメラを近づけてくれたものの、素人目には今まで見てきたポリープとの差が分からなかったが、確かにポコポコと丸いものが連なっていたのでそれが痔だったのだろう。

検査の結果、とても小さく綺麗なものとはいえ、実はかなりな数のポリープが存在していることと、発症はしていないものの痔主であることが判明した。

ポリープは経過観察となったため 2年に一度は大腸がん検査を受けたほうが良いということと、それを受けるのであれば毎年の健康診断で受けている検便による大腸がん検査は必要ないとのことである。

人から聞いたり勝手に想像していたより検査前の下剤は辛くなかったし、検査自体も尻の穴を見られるという羞恥心がある程度で痛くも何ともなく、むしろ毎年の胃カメラのほうが苦しいくらいであるし、便秘症ゆえに検便に間に合うかという毎年のプレッシャーからも開放されるのであれば、2年に一度くらい内視鏡による大腸がん検査を受けるのも悪くない。

それで仮に大腸がんになったとしても早期発見できるだろうから、ここは素直に医者の意見に従おうと思っているところである。