大腸がん検査 その時

先週からの続き ~

大腸がんの内視鏡検査は肛門からスコープを挿入するので、検査のための着替えでは男性用下着にある俗称 『社会の窓』 が尻側についているような構造の使い捨てパンツを履く。

それに着替えてからも便意は止まらず、看護師さんにことわってからトイレに行ったが、検査台に横になって医者の登場を待っているうちに再び模様して再度トイレに。

それでやっと落ち着いて検査を始めることになった。

最初に検査しやすいよう、腸の動きを止める筋肉注射をする。

下剤を飲む前には薬で動きを活発化させられ、直後に動きを止められるというのだから腸もなかなか大変だ。

「筋肉注射ですから痛いですよ~」
などと脅かされながら右肩にうたれたが、最初だけチクッとしたものの言われるほどの痛みを感じることがなかったのは、幼児の頃は喘息持ちで体が弱く、医者から
「まいどさん」
と言われるほど病院通いし、何度も何度も注射されたことによって痛みに慣れてしまったか、痛点がなくなってしまったのだろうか。

そして、医者が
「カメラを入れやすくするためローションを塗りますね」
と言いながら尻に塗ったかと思ったら、いきなり肛門に指を入れられたので
「おおっ!」
と驚きの声を上げてしまった。

子供の頃から便秘体質で、何度か病院で浣腸されたり医者や看護師に指を入れられたりしたが、その時の感覚の記憶はすでになく、大人になってから座薬を入れたことはあるものの、それ以上の大きさの異物が肛門を逆行したことなどないので生まれて初めてに近い妙な感覚だ。

医者が笑いながら
「次はカメラが入りますよぉ~」
と言う。

やはり、その感覚はとても馴染めるようなものではかったが、ぬ゛~と体内への侵入を許すと、もうどうにでもしてくれ~という、すべてを諦めきってしまったような、何らかの悟りを開いたような気になった。

人によっては痛みを感じることもあるらしいが、自分が痛みに鈍感なのか、操作する医者の技術が高いのか何の痛みも感じないままカメラは体内を進む。

途中、
「腸を広げるために空気を入れますね」
と言われ、機械からプシューという音がすると、腸内に空気が入る不思議な感覚に襲われたのだが、それはまるで大道芸人が犬やウサギを作るマジックバルーンが膨らむかのごとく、自分の腹の中で腸が肛門側から胃に向かって順に膨らんでくるのが分かる。

「空気を入れているのでオナラがしたくなったら構わず出してください」
とか、
「今、盲腸を通過しました」
とか、
「もう少しで小腸付近です」
などと説明を受けながら、『どうにでもしてくれ~』 状態は続き、やっと大腸の終わり、小腸の手前までカメラが達した。

そこでモニターをこちらに向けられ、
「これからゆっくり抜きながら見ていきますね」
「途中、説明しますから一緒に見ましょう」
ということだったので自分の腸内を見ながら話しを聞く。

「ここが小腸と大腸の境目です」
などと言われても素人目にはわかるはずもなく、ただ
「はぁ」
という生返事しかでてこない。

途中、カメラの動きを止めて
「ここにポリープがありますね」
と見せられたが、確かにピンク色の丸い突起物がある。

それは 3ミリ以下の小さなもので、がん化もしていなければ、がん化のリスクも小さいということで切除の必要はなく、今後も経過観察するということになった。

医者は言う。

がん化したものは、いかにもガンですっ!といった感じで見かけも黒ずんでおり、形状もいびつなお世辞にも綺麗と言えないものだが、見えているポリープは薄いピンク色でツヤツヤしており、形状もまん丸で綺麗なので何の問題もないと。

その言葉を聞いて安心していると、再びカメラを動かしていた手が止まり、
「右上の方に黒っぽいものが見えますよね」
などと言う。

確かに周りとは明らかに色の違う、ドス黒い影が画面に映し出されており、先ほどの医者の言葉が頭の中をこだまする。

「がんは黒ずんでいて・・いて・・いて・て」
「いかにもガンですっ!・・です・・です・す」
「お世辞にも綺麗とはいえない・・ない・・ない・い」

目の前が暗くなるような不安を覚えた瞬間、
「あの影は肝臓が透けて見えてるんですよ」
などと軽~く言ってのけるではないか。

「それを先に言えーーーっ!」
とか、
「ふ、ふざけるなぁーーっ!」
と胸ぐらをつかんで怒鳴ってやりたい衝動に駆られたが、なにせこっちは肛門からカメラを入れられている身であるため、
「ほほ~、そうなんですかぁ~」
などと適当な相づちをうつしかない。

その後もいくつかのポリープを発見しつつカメラは出口に近づいた。

そして、肛門付近になると医者が
「いくつか痔がありますね」
と言ってカメラを近づけてくれたものの、素人目には今まで見てきたポリープとの差が分からなかったが、確かにポコポコと丸いものが連なっていたのでそれが痔だったのだろう。

検査の結果、とても小さく綺麗なものとはいえ、実はかなりな数のポリープが存在していることと、発症はしていないものの痔主であることが判明した。

ポリープは経過観察となったため 2年に一度は大腸がん検査を受けたほうが良いということと、それを受けるのであれば毎年の健康診断で受けている検便による大腸がん検査は必要ないとのことである。

人から聞いたり勝手に想像していたより検査前の下剤は辛くなかったし、検査自体も尻の穴を見られるという羞恥心がある程度で痛くも何ともなく、むしろ毎年の胃カメラのほうが苦しいくらいであるし、便秘症ゆえに検便に間に合うかという毎年のプレッシャーからも開放されるのであれば、2年に一度くらい内視鏡による大腸がん検査を受けるのも悪くない。

それで仮に大腸がんになったとしても早期発見できるだろうから、ここは素直に医者の意見に従おうと思っているところである。