慣れ その1

例年よりずっと遅く、北海道にもやっと秋の気配が漂う。

自然界に目をやれば、ナナカマドの実は色づき始め、栗のイガも立派になってきているし、花をつける草木も変わり、空を行く鳥も今までと違う声で鳴いているので確実に秋は近づいているのだろうが、数日前までの異常な暑さで夏の終わりを実感できずにいた。

管理人の独り言に何度も書いているように、今年の北海道は記録的な暑さ、長引く残暑で季節感を失い、いつまで経っても夏が終わらないような感覚に襲われる。

40年ぶり、60年ぶりに気温に関する記録に達したかと思えば、過去 100年の観測史上で類を見ない記録も次々に樹立し、涼を求めて北海道に来た観光客の期待を見事に裏切った今年の夏。

春から夏にかけては 25度を超えると暑く感じるが、夏から秋にかけて 25度台まで気温が下がると肌寒く感じてしまうのが不思議だ。

これは、寒さへの慣れ、暑さへの慣れからくる感覚的なものだろう。

大阪に暮らしていた頃、冷房を使わずにいると室内は 40度に達しようかという程の灼熱地獄になったが、どうしても冷房の空気が好きになれないのでエアコンの除湿運転で乗り切ろうと試みてはみたものの、さすがに 34度を超えると我慢の限界に達して冷房運転に切り替えたりしていた。

そんな生活を続けていると体が順応するらしく、秋になって室温が 30度くらいになると寒く感じ、感覚が麻痺してしまったのではないかと我が身を疑ったものだ。

日本で一番暑い夏、湿気が多くジメジメした夏を十数年ほど味わったのちに北海道に帰ってくると、あまりにも夏が快適すぎて天国のようだと思った。

人からは 5年もすれば慣れて北海道でも夏は暑いと感じるようになると言われたが、あの大阪の記憶があれば決してそんなことはなく、いつまでも快適に過ごせそうな気がしていた。

そして今年が 5度目の夏、確かに記録ずくめの暑い夏ではあったが、確実に暑さに弱くなってしまったような気がする。

連日の暑さもたかが夏日であり、真夏日でも猛暑日でもない。

嫌なジメジメも湿度は 60%前後で、65%になったのは数日のことだ。

大阪では真夏日、猛暑日が日常で 60%以上の湿度は当たり前のことであり、それが約 2カ月ほど続くのだから、たかが数週間程度のことでダメージを受けていては生きていられない。

そんな土地で 10年以上も暮らしていたのに、たった 5年でこの体たらくは何事ぞっ!と、自分を戒めてはみるが、頭では分かっていても皮膚感覚、肌感覚がすっかりこちらの気候に慣れてしまい、自身でのコントロールは不可能だ。

ただし、大阪はもっとひどかったとか、大阪の暑さはこんなものではなかったという記憶は薄れることなく鮮明に残っているので、北海道の夏しか知らない人よりは耐性が強い。

昨日もこの町の最高気温は 27度を超え、北海道内の場所によっては30度を超える真夏日となり、まだまだ残暑厳しいとテレビでは伝えていたが、湿度が 50%以下だったので大阪帰りの身には実に快適で爽快に感じられる。

相変わらずジメジメとした湿気には弱いが、暑さに対してはまだ抵抗力が残っているようだ。

来年、再来年と、月日の経過とともに肌や脳が気候に慣れて耐性が薄れ、いつか北海道の夏ですら暑くて我慢できなくなる日は来るのだろうか。

そうはならないよう、たまに大阪に遊びに行って地獄の夏を経験するのも悪くないかもしれないと、頭のほんの片隅で思わないこともないが、わざわざそんな経験をすることもなかろうという思いのほうが脳の圧倒的部分を支配しているので実行に移すことはないだろう。