先月の雑感に身近な伝説のことを書いたが、あれはすべて二十歳前後のことである。 それ以前の学生の頃にも学校で伝説として語り継がれていることがあったし、新たな伝説を生んだ奴もいた。
高校で語り継がれていた伝説に 『山菜事件』 というのがある。 それは何年前の先輩なのか不明だが、素行のよろしくない、つまりは不良と呼ばれる先輩二人が原チャリ (50cc のバイク) の無免許運転、二人乗りで捕まり、その原チャリが盗品であったことから警察のお世話になってしまった。
警察署に呼び出された親は激怒し、こっぴどく叱られたのは当然だが、学校も一週間の停学処分になってしまった。 停学期間が終わり、二人揃って登校してきた彼らは昼に弁当を食べようと中を見たところ、一人の弁当には 『ふき』 がびっしり詰められており、米が一粒も入っていない。 それを見て、もう一人が大笑いしていたのだが、自分の弁当を開けてみると 『わらび』 がびっしり詰められていた。
どうやら双方の親が結託して子供に罰を与えたらしい、その話は高校の伝説となっていた。 その伝説を家族に披露して大笑いしながら楽しい夕食をしていた先輩の家に警察官がやってきた。 その数日前に他校との乱闘騒ぎがあり、彼もそれに参加していたのである。 楽しかった夕食の席は一瞬にして凍りつき、母親が泣き崩れる中を息子は連行されていった。
結局は彼も警察署でも親にもこっぴどく叱られ、学校からは一週間の停学処分を言い渡されてしまった。 停学期間が終わり、久々に登校した昼、弁当を食べようと中を見ると 『うど』 がびっしりと詰められていて一粒の米も入れられていなかったらしい。 その後、これら一連の出来事は 『山菜三連発事件』 として、より多くの人に語り継がれることになったのである。
この雑感に何度も書いているように、大人からは自分も不良と分類されていた人間である。 「本校始まって以来の悪(ワル)」 とまで言われたが、そう言われるきっかけとなってしまったのが 『中二、中三乱闘事件』 である。 ただし、今さら弁解する気もないが、この件に関しては決して中心人物ではなかったのに、「本校始まって以来の・・・」 と言われるようになってしまったのである。
中二の時、同級生の女の子が三年生の先輩とつきあっていた。 ところが彼女はひどいふられ方をしてしまったのである。 その話を聞いた我々同級生は 「許せんなぁ」 ということになり、その先輩を呼び出して文句を言ってやろうということになった。 放課後、体育館に呼び出された先輩は、恐れをなして同級生数人を引き連れて姿を現した。
数には数で勝負ということになったらしく、自分も後から呼ばれたのである。 そのころの連れだったカズトシと一緒に体育館に行ってみると、二年生と三年生が左右に分かれて一触即発の状態で睨みあっている。 「これはマズイ」 ということになり、自分とカズトシは他校の不良仲間も召集しようと、その場を離れて電話をかけに行った。 残念ながら連絡がつかず、「こうなったらやるしかないな〜」 と体育館に戻ったら、すでに乱闘が始まり、職員室から教師が飛び出してきて事態の収拾に努めていた。
結果的には何もしていないのに教師に連行され、普段から目立っていた自分が主犯格だと思われて 「本校始まって以来の・・・」 と言われてしまったのである。 その後、その事件の話に尾ヒレや背ビレ、胸ビレまでついて 『伝説の乱闘事件』 として中学校で語り継がれることになってしまった。 とくに自分に関しては、主犯格だと思われていたのに無傷だったため、一人で何人も相手にして闘って相手に大怪我をさせたような勢いの話になってしまったらしい。
実は電話をしていたので怪我などするはずがないのである。 すぐ年下の知り合いから 『伝説』 が残っている話を聞かされたときに、「これはいかん」 と思って真相を話したが、それから数カ月たってもそれが正確に伝わって 『伝説』 が訂正されることはなかった。
あれから長い年月が経過したので、今はその 『伝説』 が残っていないと信じたいが、さらに尾ヒレなどが成長し、(とんでもない化け物みたいなことになっていたら恐いなぁ) などと余計な気を揉んだりしているのである。