ショウコトレイコノコト

我が母ショウコと叔母のレイコは相変わらず仲が良いのか悪いのか、互いが互いを敬遠しながらも付かず離れずの関係を保ちつつ、いざという時には支えあったりしている。

いや、ショウコが一方的に頼っているだけであって、レイコがショウコを頼ることはない。

自分が子供ころから『おばちゃん』と呼んでいるので、ショウコもつられて実の妹のことを『おばちゃん』と呼んでいるが、レイコは
「私はあんたの叔母ではない」
と怒りつつもショウコに何かがあれば駆けつけ、面倒を見てくれている。

そんなレイコにすっかり甘えているのはショウコだけではなく、実は自分も頼りっきりにしている面があるのは否定できない。

今回の入院に関しても、『ハハキトク・・・』と大騒ぎして腹立たしい思いをさせられたものの、もしレイコがいてくれなければもっと大変なことになっていただろうし、世によくあるパターンのように 『お買い物日記』 担当者が自分の故郷に行って付きっきりで看病したりする場面だってあったかもしれない。

すぐには行けない自分たちに代わって入院の手続きから医師との打ち合わせ、入院に必要なものの運搬、毎日の見舞いなどもしてくれ、転院になった際も諸手続きなどすべてやってくれた。

そんなレイコにはとても感謝している。

とても感謝しているが、面と向かって話をしたり、電話で話すとついつい腹が立ってしまうこともしばしばだ。

以前の雑感にも書いたようにレイコの話が回りくどく、イライラしてしまうのも要因の一つだが、なんでも決めつけて話を進めようとするのも困ったり腹が立ったりする原因なのである。

今回の端緒であった『ハハキトク・・・』の件も、ショウコのろれつが回らないこと、動けなくなって発見されたこと、意識が混濁していることなどから医師の話を聞く前に勝手に重症の脳出血かクモ膜下出血、または脳塞栓に違いないと判断し、危篤状態になっていると思い込んでので大騒ぎになった。

そして、今はショウコの今後に関して勝手に話を大きくしている。

自分のことをいつまで経っても頼りのない、母親の面倒もろくに見ようとしない出来の悪い甥っ子だと思っているのが根本にあるのだろう。

確かに積極的な態度も行動も見せてはいないが、それはショウコとの話し合いの末であって決してショウコのことを心配していない訳でも見捨てた訳でもない。

入院当初は医師から一人暮らしはもう無理だと言われたが、幸いにしてショウコは人並外れた野獣的な回復力をみせており、みるみる元気になっていったので、その超人的回復力に驚いたり喜んだりしつつ、思ったより早めに退院できるようになった場合のことを考えて話をしておいたのである。

ショウコはできるだけ早く家に帰りたいので頑張ってリハビリに励むということ、もし自分たちが暮らしている街の近郊に良い施設が見つからなければ、あとひと冬くらいであれば頑張って一人暮らしするので、できるだけ通いやすい施設を探してほしい旨を宣言した。

施設探しには審査し直すことになった介護認定の結果が必要だ。

現在の要支援より、要介護の方が受け入れる施設も多いので選択肢が広がるのだが、なによりその認定がなければ具体的な行動に移すことができない。

レイコがあれやこれやと口出しするのでショウコもへそを曲げたのか、そんな細かなことを説明するのが面倒なのか、退院後はどうするのかという問いにハッキリとは答えなかったらしく、それは甥っ子である自分が何もしていないからだろうとレイコは考え、ショウコをどうするのかという電話をかけてよこした。

その電話でもレイコの話は回りくどく、何日に伝えたことをショウコが覚えていなかった、先週伝えたことも忘れていた、3日前のことも覚えていないなどと長々とショウコの記憶力があやしくなってきているのではないかということをしゃべり、
「それで退院したらお母さんのことどうするの」
と、最後の最後になって聞いてくる。

確かに寄る年波には勝てず、ショウコの記憶力が衰えてきているのは事実だが、生活に支障があるようなレベルではないし、必要なことは自分なんかより細かく記憶しているのでレイコが大騒ぎすることでもないと憤慨してしまったことと、退院後に関してはすでにショウコと話し合っているのでとやかく言われたくないという感情が入り交じったところに長話につき合わされた腹立たしさも加わってムカムカしてしまい、ついつい声を荒げて
「そんなことは言われなくても分かってるっ!」
と電話を切ってしまった。

その後もショウコのリハビリは順調に進み、もう室内を歩く程度までは足の筋力も回復している。

入院前から外出することもなく、キッチンやトイレまでしか歩いていなかったので、それはつまり以前と同等レベルまで回復しているということだ。

それを医師やスタッフは知らないので、もう少し歩けるようにと病院から出て外を歩くリハビリに移行することとなり、ついては外に出るための靴と服を用意してほしいと医療相談員から連絡がきた。

医療相談員の話では、思ったよりも順調な回復ぶりで、もしかするとあと 2-3週間で退院できるかもしれないとのことである。

その電話の際、レイコがくどくどと言っていた記憶力に関して相談してみると、医師との面談や看護師との会話、リハビリ中の会話でも記憶障害や痴ほうの症状はみられないが、これからも気を付けて見守ってくれると言ってもらえた。

やはり記憶の件に関してはレイコが気にし過ぎているのだろうが、問題は靴と服である。

それを実家から病院に届けるためだけに帰省するのも面倒だし、早ければ 2-3週間後の退院の際には行かなければならないので何度も往復するのは体力的にもしんどい。

で、ここはやはりレイコに頼むしかないと思われるし、よくよく考えてみれば冒頭に書いたようにレイコには散々お世話になっているにも関わらず、声を荒げて電話を切ってしまった反省から正確に状況を伝えるべきだろうと思い、昨日の午前中に電話をした。

心配していた記憶の件を医療相談員に伝えたこと、今は心配なさそうだということ、周りが思うより順調に回復していること、退院も早そうだということを話し、そのために次の段階のリハビリに進むこと、ついては靴と服が必要なので家から持って行ってやってほしいとお願いすると、レイコは快諾してくれた。

やはり持つべきものは面倒見の良い叔母である。

そしてやはり、レイコが元気でショウコのそばにいてくれることを感謝しなければなるまい。