マサルノコト scene 20

いよいよ中学生活も 3年目に入り、当然のことながらクラス替えが行われた。 それまで何をするのも一緒だったノブアキとは別のクラスになってしまい、教室も一階と二階に別れることになった。 それで疎遠になってしまったかと言うと決してそんなことはなく、休み時間にはお互いのクラスを行き来したり、放課後に一緒に遊ぶ生活が続いた。

そしてマサルとの腐れ縁は三年生になっても同じクラスになることで続き、その一年間はいつも席が近かった。 進級したからと言って自分は何も変わらなかったが、周りの同級生たちは明らかに高校受験を意識し始め、一緒に授業をサボっていた奴も寝てばかりいた奴も少し真面目に授業を受けるようになってしまった。

そうなると一人で遊んでいてもつまらないので、寝ている以外は必然的に授業を聞くことになる。 前の席に座っているマサルにちょっかいを出してみても 「うるさい!」 と叱られるだけだし、田舎町なので人通りも少なく、ボ~っと外を見ていても変化がなくてつまらない。

何となく授業を聞いているうちに少しずつ内容を理解し始め、それまで白紙で提出していたテストにも答えを記入するようになった。 今は順位をつけると親が大騒ぎして教育委員会をも巻き込む大問題へと発展するが、当時はテスト結果を廊下に貼り出されたり、点数順に答案用紙を返されたりするのは日常茶飯事だったものである。

今思い出しても不思議なのは、全教科を白紙で提出していたにもかかわらず成績がビリではなかったことだ。 同学年は 300人近くいたと記憶しているが、必ず自分より下に 2-3人の名前がある。 同じ 0点だった場合、あいうえお順にでも並んでいるのかと思ったが、それとは明らかに異なる。 それではクラス順なのかと言えばそれとも違う。 あの結果だけは今でも謎だ。

そんなことはさておき、ビリから数人目だった成績は少しずつ良くなり、それまで 「高校に行けなかったらどうするんだ!」 と言われ続けてきたが、親からも教師からも何も言われなくなった。 実際のところは高校進学などどうでも良く、受験のために勉強をしている訳でもなく、いままで何もしていない上にテストを白紙で提出していたのが授業を聞いて答えを書いているのに過ぎなかった。

自分では何も変わっていないつもりだったが、二年生のときに付き合いのあった不良仲間とはだんだん疎遠になり、マサルとかノブアキのような優等生と一緒にいる時間が長くなった。 結果的に少しずつ更生の道を歩み、決して優等生などではないが、普通の生徒として中学を卒業することとなる。

卒業後しばらくしてマサルから本当のことを聞かされた。 三年生に進級する際、二年生のときの担任だった教師からマサルは呼び出され、三年になってもマサルと自分は同じクラスになることを事前に知らされたらしい。 そして、その教師から 「あいつのことを頼む」 と言われたのだと。 その指示をマサルは忠実に守り、自分のことを卒業するまで面倒をみてくれたのである。

以前に書いた転校していく友達を授業を抜け出して見送ったのに、それを本気で叱らなかった担任、本気で叱り、時には殴られもしたが、小さなことには目をつぶってくれた担任、そして自分を見守り面倒を見てくれたマサルには、前回の最後にも書いたように感謝しているし、ある意味の恩人であるからして足を向けて寝られない。

しかし、二人がどっちの方角で暮らしているのか良く分かっていないので、何も気にすることなくゴロゴロしたり就寝したりしている今の自分だったりするのである。