想い出の居酒屋 其の拾壱

想い出の居酒屋 おしながき

北海道に帰ってきてからまた通うようになった居酒屋。

今まで一年に一度、実家への帰省の際に札幌に一泊して夜は店で過ごしていたが、今後は店に顔を出す機会が極端に少なくなってしまうものと思われる。

第一に、母親がギブアップしたので実家での一人暮らしではなくなる日も近く、そうなれば帰省することもなくなるので札幌に宿泊する必要性が失われてしまう。

第二に、宿泊する可能性があるのは 『お買い物日記』 担当者の通院に付き合って札幌に行くときくらいなものだが、札幌に限らず外国人観光客が日本に大挙して押しかけている状況下にある昨今、何カ月も前でなければ宿泊先の予約をとるのが難しいため、たまには札幌で一泊して買い物や食事など・・・と、安易にできないようになってしまった。

そんなこんなで店への足は遠のいてしまうだろうが、これからも可能であれば一年に一度くらいは行ってみたいと思っている。

昨年、居酒屋のママがくも膜下出血で倒れ、緊急入院したのは前回の雑感に書いたとおりだが、そんな生きるか死ぬかの状況だったのにも関わらず、退院した帰りの車の中でマスターに向かって
「タバコちょうだい」
と言ったというのだから大したものだ。

しかし、体力はすっかり落ちてしまい、もう店に出るのは辛いということで今は半隠居生活を送っていて、店が極端に忙しい時にのみ手伝っているという。

それでも去年も今年も店に行けば住まいである二階から降りてきて話しをしてくれる。

実はママ、昔からガリガリに痩せており、体は丈夫そうじゃないと思っていたが、『お買い物日記』 担当者が大病をする少し前には大腸がんで生死の境をさまよい、子どものころには骨髄炎で苦しんだのだそうだ。

今でこそ抗生物質が発達しているが、昔は骨髄炎を発症すると死亡リスクも高く、後遺障害が大きな問題でもあったらしいのだが、その時もママは後遺症を残すことなく完治したというのだから運は強いのだろう。

そんな訳で、たとえ店には出ていなくても年に一度くらいはママの様子も見てみたいと思っている。

かなり以前に書いたように、ママとマスターは部屋で猫を飼っていたのだが、その猫は 18年生きて、つい最近まで飼っていたというから驚きだ。

猫の死があまりにも辛かったので、もう飼うまいと思っていたらしいのだが、最近になってまた猫を飼ったという。

以前に飼っていた猫は人見知りが激しく、以前に何人かで交代しながら 3時間以上も猫じゃらしを振り続けたものの、まったく近寄って来なかったという筋金入りだったが、今度の猫は人懐っこくて警戒心も薄く、手に乗せたエサを食べる。

店の近所で建て壊しになったアパートで飼われていたらしいのだが、飼い主が猫をおいて行ってしまったらしく、野良となったその猫に何度かエサを与えていたところ、定時にやってくるようになったという。

猫も賢いもので、何時頃にあの店に行けば食べ物をくれると学習したのだろう。

そして、猫好きな夫婦にもう一押しすれば飼ってもらえると考えたのかもしれない。

とにかく夕方 5時頃、夏に開け放っていた店の入口できちんとお座りをして、食べ物が貰えるまで待つようになったのだそうだ。

前の飼い主のしつけが良かったのか、良い子にしていれば家族の一員にしてもらえると踏んだのか、猫は勝手に店に入るようなことをせず、ただじっと座って待っている。

その姿が可愛かったり健気に思えたりして、ついつい脂ののった刺し身だの季節の魚だのを焼いて食べさせているうちに毛艶が良くなり、どんどん情も移ってきてしまい、とうとう飼うことになってしまったのだそうだ。

今年の 9月に行った時には猫も店に顔をだし、カウンターのお客さんから刺し身をもらって食べていた。

やはり教育が行き届いているのか、決して小上がりの畳の上に上がったりしない。

そんな猫、病気がちのママ、いつも明るくしているマスター。

やはりたまには会って様子を見たいし話もしたい。

母親が故郷を出たあと、何の名目で札幌での夜を過ごすことができるだろうか。