帰省中に雑感を書くのは二度目のことだ。
前回はタブレットでの入力だったにもかかわらず長文になってしまった。
今回はパソコンからの入力ではあるが、短文で終わらせようと思っている。
実家といえば、当然のことながら主役は我が母ショウコだ。
あれだけ元気なスーパー婆さんだったショウコも足の痛みには勝てず、今は横になっていることが多くなったので足腰は極端に弱り、まともに歩くことのできない状態になってしまっている。
しかし、本人は治る気満々で、
「足が治ったら亡くなった○○さんの所に香典を届けなきゃ」
などと言っている。
ショウコ自身が、いつ香典をもらってもおかしくない年齢になっており、今は寝たきりになりはしないかと周りに心配されているというのに本人にはまったく自覚がない。
変に弱って心まで折れ、そばにいてほしいと言われるよりマシではあるが、もう少しは婆さんらしくできないものかと呆れてしまう。
この街で唯一の身内であるレイコとは二か月ほど前に大喧嘩し、現在のところ冷戦状態が続いている。
ショウコと同じように足が痛かった人がおり、その人が診てもらった医者は本来であれば足とは関係のないはずの頚椎が原因だということを突き止め、治療してもらったところ見事に回復して今では普通に生活できているという話しを聞いたショウコ。
それはたまたま通っている病院の先生だったが、ショウコの担当医ではなかったため、次の診察の際には担当医を変更して欲しいと病院に申し出た。
それを聞いたレイコは
「なんたる無礼なことをするのかっ!」
と怒った。
以前にも書いたように定年まで病院勤めをしていたレイコの目には、担当医を変えるなど非常識極まりない行為であると映ったらしく、烈火のごとく怒ったのだろう。
妹から叱られて面白くないのは理解できるが、そこで素直に痛いのが本当に辛いので人から聞いたどんなことでも試してみたい、どんな情報にも頼りたい、だから非常識を承知で担当医を変えてみたいと言えば良いものを、きっとショウコのことなのでレイコに食ってかかったか逆上して怒鳴り返したに違いない。
大喧嘩へと発展した電話口でレイコは
「もう二度とこっちからは連絡しないからねっ!」
と言い放ったとのことだ。
それから二か月、ショウコなりに反省しているのか、レイコに連絡してみようかと電話の前までは行くらしいのだが、何と言ったら良いのか分からず電話するのを躊躇する日々が続いているらしい。
女子高生じゃあるまいし、モジモジしていないで
「どうしてる?」
と話しかけたら済むことなのに、自分から折れるのが嫌なのか、バツが悪いのか冷戦状態は続いたままだという。
そもそも、いい歳をした婆さん姉妹が喧嘩などしなければ良いのである。
そんな馬鹿らしいことに付き合う気はないので仲裁などしてやらずに放っておくつもりだ。
あの超大国のアメリカとソ連ですら政治的、軍事的な駆け引きを乗り越えたことだし、ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツも統一されたのだからショウコとレイコも放っておけば和解に至ることだろう。
いつまでも意地の張り合いをしていて、どちらかに何かがあってから後悔しても遅いのである。
もうそういう年齢であることを二人とも理解すべきだ。
唯一の身内であるレイコと大喧嘩までした今回の一件だが、実はとんでもないオチがある。
知り合いが勘違いしたのか、ショウコが聞き違えたのか、その痛みの原因を突き止めたという大先生の情報は正確さに欠いていた。
知り合いが痛かったのは足や腰ではなく肩だったとのことで、肩であれば頚椎が原因だったというのも遠い話ではなく、普通の医者が普通に見つけられるものだったことだろう。
つまり、ショウコは担当医を変える必要などなかったのである。
だとすれば、ショウコとレイコはなぜ大喧嘩せねばならなかったのか。
曖昧な情報に踊ったショウコが悪かったのか、愚かな姉を責めすぎたレイコの罪なのか。
今回、連絡していないとのことなのでレイコとは会わずに明日の朝には帰路に着く。
またこの街での肉親はショウコとレイコだけになる。
この老姉妹の冷戦はいつまで続くことだろう。