隣人その2 右隣の一軒家

我が家に向かって右隣には、以前ワンプと高校生の息子さん、そしてそのご両親が暮らしていたが、息子さんが高校を卒業して家を出たことと、近くに住む奥さんの親が高齢になったことから、そちらと同居するために引っ越してしまった。

しばらく空き家になっていたその家に入居者が決まり、引っ越してきたのが四月の初旬のことだったが、引越しの挨拶をされていないし表札すら出していないので、今でもどこから来た誰なのか分からない。

すでに二カ月が経過し、窓を開ける季節にもなってきたので何となく住んでいる人は分かるようになってきた。

どうやら老夫婦が一組、その娘らしき女性が一人、その子供らしき中学か高校生くらいの男の子が一人に犬が一匹という家族構成のようだ。

ある程度の年齢になっている人が引越しの挨拶をしないということは、あまり近隣に正体を明かしたくないのかと疑ってしまう。

男の子には母親しかいないようであるから、夫の暴力から逃げているところで、その夫に居場所を知られたくないがために近所付き合いを避けているという可能性もある。

はたまた離婚後に交際した男性がストーカーとなってしまったため、その魔の手から逃れるために身を潜めているのかも知れない。

しかし、男の子は学校に通っているので転校の際には住民票などが必要になるであろうから居場所を突き止められてしまうことになると思われ、夫の暴力やストーカーから逃げる一家という推理は当てはまらないだろう。

だとすれば家族のうちの誰かが犯罪者、あるいは事件事故に巻き込まれた被害者で、好奇の目にさらされたくないがゆえに近所づきあいをしたがらないのだろうか。

いや、家族に見えるが実は他人の集まりで、訳の分からないカルト宗教に属して出家した人たちかも知れない。

もう二か月にもなるのに一言も話しをしていないことによる不安感もある。

家にこもっていることが多い我が家であるため、それも言葉を交わさない一因ではあるかも知れないが、ほんの数回だけ遭遇した際に相手が話したがらないような素振りを見せていることも大きな要因だ。

『お買い物日記』 担当者が家の周りの掃除をしていると、隣の家で玄関を出入りする気配があるものの、声をかけてもらったことはないし、顔を上げるとすでに後ろ姿しか見えないということが何度かあったと聞く。

朝の散歩から帰ってくると隣の人が玄関から出てくるところだったが、目も合わさず、そそくさと車に乗り込み、そのまま発進してしまう。

どう考えても 『話しかけてくれるなオーラ』 を発しているとしか思えない。

数日前、部屋の明かりを点けず、カーテンもしないまま、夕方から夜にかけて例の体操をしていると、南側の大きな窓の外を通る影があった。

気にはなったものの無視していると、影は逆方向に進む。

そして再び右から左に影が動くので窓に近寄り見てみると、右隣の家の老夫婦と思われるうちの女性のほうが、我が家の敷地内を歩いて裏まで行き、再び敷地内を歩いて帰って行った。

部屋を暗くしていたので誰も居ないと思い、勝手に敷地内を歩いているのか、それとも普段から歩いているのをカーテンをしているので気づかずにいただけなのか。

いずれにせよ右隣の住人は我が家にとって不気味な存在であるし、一般常識に欠けているように思えてならない。

左隣の住人が良い人なだけに、右隣の住人の不気味さが際立ってしまうのだろうが・・・。