隣人その1 左隣のお店

一週間前の日曜日隣の店マユちゃんが帰って来たのではと期待したが、どうやら一時的に帰省していただけだったらしく、あれからマユちゃんの部屋に明かりが灯ることはなかった。

我が家に向かって左隣、理美容室を営む隣人をいつも見ている訳でもなければ、のぞき趣味がある訳でもないが、家の構造上の都合から自然に隣家が目に入ってしまう。

トイレに行こうと立ち上がった時、ゴミを捨てようとする時、キッチンに向かう時、そのキッチンで冷蔵庫に向かう時、電子レンジを使う時、トースターを使う時、調味料を手に取ろうとする時、そのすべての動作において北側に位置する窓から隣の店が見えるし、まして 『お買い物日記』 担当者は窓を見る位置でパソコンに向かうので、結果的には頻繁に目にすることになる。

店の駐車スペースに常に車があれば、
「ああ、今日も店は忙しそうだ」
と思い、窓から見える目の前に駐車している主にお兄ちゃん乗っている車、妹ちゃんが乗っている車の二台それぞれがなければ
「お兄ちゃんが出かけたのか」
とか
「妹ちゃんはどこに行ったのか」
と思ったり、お母さんの自転車が玄関先に置いてあれば
「買い物に行ってきたのか」
と思って、お父さんの自転車があれば
「どこに遊びに行ってきたのか」
などと思ったりしている。

夜になれば店の明かりが消えて、それぞれの部屋の明かりが灯る。

我が家から見える左側から順に、お兄ちゃん、妹ちゃん、マユちゃんの部屋だと前に教えてもらったことがあるので、その右側の窓に明かりが灯れば
「マユちゃんが帰って来た!」
と、『お買い物日記』 担当者と二人、勝手に喜んだりしている訳である。

で、話しをマユちゃんのことに戻せば、大型の荷物が業者によって運び込まれ、直後にマユちゃんが帰って来たので札幌のアパートを引き払って実家に戻って来たのだろうと単純に想像していたのだが、それはどうやら違っていたらしく、ここ数日はマユちゃんの部屋に明かりは灯らない。

だとすれば、まるで引越し荷物のようなあれは何だっただろう。

仕送りに頼っていた学生時代と異なり、仕事を始めて自活するにあたり、狭い部屋に引っ越したため荷物が入りきらなくなったのだろうか。

それとも若くしてお嫁さんに行くことになったのだろうか。

『お買い物日記』 担当者が以前に妹ちゃんから聞いた話しによると、できるだけ早く結婚して子を産み、幸せな家庭を築いてほしいという母親としての願いがあるのだそうだ。

そしてマユちゃんには彼女が学生の頃から付き合っている家族公認の彼氏がいるので、さっさと嫁に行ってしまっても決して不思議ではない。

したがって、結婚という選択肢も非現実的なものではなく、可能性の一つとして十分に考えられることであり、彼氏と同居することになったため、部屋に入りきらない余分な荷物は実家に戻したということもあり得るわけだ。

何にせよ、キッチンの窓から見える断片的な情報だけを繋ぎ合わせ、勝手な想像を膨らませているだけなので実際のところは分からないのである。

今月は自分も 『お買い物日記』 担当者も髪を切りに行くので、その際に何か新しい事実が判明するかも知れない。