表現力

もちろん、受け手の解釈力、読解力などの違いによって大きく左右されるが、情報の発信はとても難しいものであり、その深くて険しい谷底に転落してしまった典型が橋下徹大阪市長だろう。

その発言内容の信ぴょう性、的を射てるかどうか、正論か異論か暴論かは別としても、これほどの極論を発する人物に国政は任せられないだろうし、外交なんかもってほのかというのが一般的な意見だと思われる。

海外から見て日本人ははっきりと物を言わず主張性に欠けるとは言われているが、何でも考えなしにポンポンと発言して良い訳でもない。

特に外交などは相手のあることであるし、周辺各国の理解を得て味方してもらえるような戦略も必要となる。

日本が北朝鮮による拉致にこだわるあまり、アメリカ、中国、韓国、ロシアと歩調が合わず六カ国協議の足手まといになっている的な論調が一部の国際世論にあるが、韓国だって数百人単位で拉致されているのだから草の根で世論を動かし、拉致被害者の救出という点において共同歩調をとるべきだろう。

その韓国とは竹島問題でトラブっているので共同戦線を呼びかけることはできないが、尖閣諸島問題で対峙する中国の横暴を阻止するためにも、同じように領土問題を抱える国々と一致協力することが重要だと思われる。

中国と領土問題で争う国は実に多く、同国民でありながら争う台湾、モンゴル、ロシア、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ミャンマー、ブータン、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイなど、国境や海域が接するすべての国と紛争ネタを抱えていると言っても過言ではなく、海域が接していながら争いがないのは韓国くらいのものだ。

争いがないものだから韓国と一緒になって日本が悪いと責め立てているが、実は唯一無二の仲間が肩を組んでギャーギャー言っているだけの話しであり、周辺国では孤立状態にあるはずなのだが、そこは外交力でカバーし、日本と北方領土問題を抱えるロシアに接近を図っているし、犬猿の仲と言われるインド、パキスタン両国に対しても経済関係を強化している。

そういう微妙なパワーバランスを保ちつつ、自国の主張を通す繊細な作業が必要な外交で、いきなり日本が何もしないなら東京が尖閣諸島を買うとか言い出し、中国、台湾のみならずアメリカまで腰を抜かさんばかりに驚かせた石原閣下と、何を思ったのか、急に従軍慰安婦は必要な制度とか沖縄米軍は風俗店を活用せよとか言い出す橋下氏が共同代表を務める日本維新の会に、日本の未来を預けられるかと問われれば大きな疑問符が頭の10センチほど上に大きく表示されるだろう。

両者に情報や意見の発信力があるのは認めるが、表現力、説得力が伴っているかは疑問であり、周りとの軋轢が多いことからも、その能力は決して高くないものと思われる。

その点、表現力が不足していることが逆に魅力的で、少ない語句が勝手に肉付けされたり想像力で解釈するのが楽しかったのが小泉純一郎氏であり、その異才を見事なまでに継承しているのが息子であって政治家である小泉進次郎氏だろう。

本人は意識しているのか、いないのか、知ってか知らずか、その短く発する言葉に世間の注目が集まり、それが実に些細なことであっても深く思慮された言葉として解釈される。

なんと得な人柄なのだろう。

どんなに必死に説明しても人に伝わらないこともあるし、どんなに正論を吐いても軽々しい人物に見られてしまう人も多い中、短くボソッと言った言葉を周りが勝手に拡大解釈し、それが重みをもって伝えられるとは。

ただし、それは日本人同士だからこそ成り立つことであって、それが海外に通用するとは限らいとは思うが。

短くて分かりやすく、なおかつ表現力豊かな言葉。

それが身についたら元サッカーの日本代表監督で数々の語録を残したイビチャ・オシムのような名指導者か、アイドルが歌うポップスから大御所の歌う演歌まで手がける秋元康のような名作詞家になれるかもしれない。