過去に繰り返し書いているように、マサルは真面目を絵に描いたような男であり、真面目の前に ”クソ” がつくほどですらあった。 どちらかと言えば優等生組みの仲間で、マサルのほかに 『セイジ』 と 『ノブアキ』 という友人もいた。 マサルは生徒会の風紀委員長、セイジは生徒会副会長、ノブアキに関しては忘れてしまったが、何らかの役員をしていたはずだ。
当時は不良をしていた自分が優等生組みとも仲良くしていたのは、良く言えば一匹狼で特定の不良グループに所属せず、悪く言えば中途半端で優柔不断であるゆえに、一本芯の通ったバリバリの不良にもなれないねじ曲がった性格だったことに起因するが、マサルを介してセイジやノブアキとも親交を深めていた部分が大きい。
自分と比べると三人とも真面目な優等生ではあったが、そこはヤンチャ盛りの中学生、現代では信じられないほど厳しい内容の校則が生徒手帳に細かく記載されていたものの、それを一から十まで厳守している訳でもなく、教室や廊下を走り回ってみたり、相撲やプロレスの真似をして暴れたりして持て余すエネルギーを発散させていたものである。
中学二年当時の教室は校舎の一番端にあり、最もトイレが遠い場所でもあった。 そのトイレに行って用をたし、帰路はコースを変えて体育館を経由して教室に戻るまでの時間を競ったりもしていたが、風紀委員長という立場から廊下を走る訳にいかないマサルが時間の計測係りを務めていた。
教室の前の廊下に自分とセイジ、ノブアキの三人が並び、クラウチング・スタートの姿勢をとってマサルのゴーサインを待つ。 張り詰めた緊張感の中、マサルの掛け声と共に一斉に体が動く。 その体が伸びきった瞬間、ゴイィ~ンという奇妙な音と共にノブアキが廊下に倒れこんだ。 何事かと思ったら、少し高い位置に備え付けてあった消化器に頭を強打し、その場でのびてしまったのである。
それは幸いにも大怪我には至らず、ノブアキの頭に大きなタンコブができる程度で事は済んだのだが、ある日のこと、廊下でセイジとノブアキが相撲の真似をして遊んでいた際に事件は起こった。 自分は行司を務め、マサルは風紀委員長という立場から取り組みには参加できず、廊下にドッカリとあぐらをかいて審判役を務めていた。
「はっけよ~い、のこった!」 の合図で二人は綺麗な立会い。 両者技の応酬で一進一退の攻防が続く。 セイジがバランスを崩したところでノブアキが一気に攻めに出て上手投げをうった。 それを必至にこらえるセイジだったが、力尽きて後ろに倒れこむ。 その際、太く四角い柱に腰を強打してしまい、打ち所が悪かったのか 「あ゛~!」 という声にならない声とともに苦しみだした。
怪我の名前は忘れてしまったが、それはことのほか重症となってしまい、救急車で運ばれたセイジは入院生活を余儀なくされた。 ことの重大さに最初は青くなっていたノブアキとマサル、そして自分だったが、毎日のようにセイジが入院している病院に見舞いに行き、ゲラゲラと大声で笑っては看護婦さんに 「うるさーい!!」 と叱られたりしていた。
そんな交友関係は卒業するまで続くものだと思っていた。 いや、正確には先のことなど考えたこともなく、時はいつまでも続くような、この瞬間が過去になっていることなど気付かずに生活していた。 時が経過していることなど意識せずに毎日を過ごしていた中、突然、親の仕事の都合でセイジに転校の話が持ち上がった。 ・・・次週へ続く