記憶 Memory-10

過去の記憶

少子化が進んだことと、最近の子供は塾通いで忙しいことと、家の中で遊ぶ子供が増えたことなどが重なりあって近所で遊ぶ子供の姿と声が消えてしまった。

自分が子供の頃は習字やそろばん、柔道や剣道といった、いわゆるお稽古事というのはあったが学習塾などというものは存在すらせず、放課後のグラウンドや近所の公園、広場や草むらには多くの友達がいて遊ぶのに苦労しなかったものである。

そして、そんな子供たちを見ている大人も必ずおり、誰かが怪我をすればどこからともなく現れて薬を塗ってくれたりしたものだ。

自分の子も他人の子もなく同じように可愛がり、同じように叱りつけたリしていた。

そんな時代に育った自分は近所に大勢の友達がおり、その数だけ母親や父親がいるのも同然だったので、いろいろな場所で可愛がられたり叱られたりする。

悪さをすれば他人の親にだろうと尻を叩かれたし、頭にげんこつをもらったりしたが、自分が悪いと分かっていたので親にも言わなかったし、たとえ言ったところで
「おまえが悪いからだっ!」
と言われ、他人の親と自分の親から二重に叱られる羽目になり、見事に墓穴を掘る結果となってしまっていた。

同級生はもちろん、上級生も下級生もなく一緒に遊び、友達の家にあがりこんでおやつを食べさせてもらったりすることなど日常茶飯事だった。

そんな中、国道沿いの一軒家に住む老夫婦が自分とどういう関係だったのか今も分からない。

玄関に金網のかごが置いてあり、その中でリスを飼っていたので、それを見たくて遊びに行っていたのかもしれないが、その家には同じ年代の子供はおらず、お爺さんとお婆さんが二人で暮らしていたように思う。

田舎の家であり、のどかだった当時は玄関に鍵などかかっておらず、好き勝手に出入りしても叱られたり文句を言われたりしなかった。

その家にはしょっちゅう遊びに行って勝手に部屋に上がり込んだりしていたが、老夫婦はニコニコしながら
「おや、来たのかい」
と言ってジュースを飲ませてくれたりおやつを食べさせたりしてくれた。

同じ年代の子供がいないので家の中には遊ぶものもないし、老夫婦と会話が弾むはずもないのだが、勝手に家の中をウロウロしたり巣の中からなかなか出てこないリスをジーっと見たりして、飽きると帰るということを繰り返していたはずだ。

その家の数軒先に新婚さんの住む家があり、新婚さんゆえに同じ年代の子供などいるはずもないのだが、その家にもかなりの頻度で遊びに行ってはお菓子を食べさせてもらったりしていた。

そして自宅の裏にも新婚さんが暮らしており、そこにもよく遊びに行っては何か食べさせてもらっていた。

子供の頃、親は
「この子は食が細く、あまり食べないので体が弱い」
と心配していたものだ。

しかし、実のところは、いろいろな家でたらふくおやつを食べていたので、晩ご飯など入るすき間が胃袋になかったというのが実情だった。

そして、その事実を親は今でも知らなかったりするのである。