マサルノコト scene 30

マサルノコト目次

マサルとの関係は社会人になってからも続いていたが、ノブアキを含めた三人で遊ぶことは盆暮れに帰省した際に会って酒を酌み交わす程度となってしまった。

それでも年に二回程度は会い、何時間も懇々と話し続けたものである。

酔った勢いで旧友に電話して呼び出してみたり、中学時代の担任に電話したこともあった。

そのまま話しの流れで翌日に遊びにいく旨を告げたものの、当日になってみれば面倒だったり会って話すことも思いつかなかったりですっかり気を削がれてしまい、担任に会いに行くのを取りやめたのだが、もともとマサルと自分のだけの担任であってノブアキは最初から関係ないという事実があったりする。

他の地域では馴染みが薄いだろうが、当時は北海道が発祥のパークゴルフというスポーツがブームとなっていた。

使用するのはボールの他にクラブ一本と、道具に高額な費用がかかる訳でもなく、短いクラブで低反発のボールを打つため危険が周りに及ばず、子供たちが遊ぶ公園内でも練習や競技が可能、そしてルールが単純であることからゲートボール愛好者、競技者数をあっというまに追い越して、今現在も競技者数が増加し続けている高齢者の人気スポーツだ。

ノブアキは親に連れられてパークゴルフを経験したらしく、酒を飲みながらそのゲームがどれほど楽しいかを力説したことがある。

ゲートボールと同様にお年寄りのスポーツという印象が強かったマサルと自分は、ノブアキの話しを右の耳から左耳に流しながら
「ふんふん」
とか
「ほぉ~」
とか適当に相づちを打っていたが、あまりの力説に屈し、爺さんになる前でも三人が一定以上の年齢に達したら一度集まってプレーしようということで話をおさめておいた。

とにかく三人で飲む酒は楽しく、言い争いをしたことも自慢話をしたことも苦労話をしたこともなく、最初から最後まで笑いっ放しの明るく健全な時間が流れたものだ。

しかし、ただ一度だけノブアキが店の人にキレたことがある。

居酒屋で食事がてらの酒を呑み、良い気分になって二軒目の店を探し、初めて入る小さなスナックに腰を落ち着けた。

三人とも酒に弱くはないのでチビチビと水割りを頼むよりボトルを入れてしまおうということになり、ボトルキープというよりは飲み干すつもりで一本注文して乾杯などしながら飲み始め、カラオケで一曲歌い終わったところで店のママさんが
「そろそろ閉店なんですけど」
と言い出した。

それまでの所要時間は 20分足らずであり、頭の中が真っ白になってポカーンとしてしまったが、ノブアキの血は瞬間湯沸かし器のように一瞬にして煮えたぎり、怒りをぶちまけ始める。

ただし、酔ってはいるものの、それは実に理論的で、店に入った際に閉店時間を告げるべきであるということと、残り時間が短いのであれば、ボトル注文を受け付けず、水割りなどを勧めるべきであろうという内容だ。

そこでママさんが素直に詫びれば良かったのだが、ツンと横を向いてしまったのでノブアキの怒りに拍車がかり、文句を言う内容も言葉遣いも乱暴になってきた。

一人がキレると周りは不思議なほど冷静になるもので、確かにノブアキの言っていることは筋が通ってはいるが、酒の勢いもあって収まりがつかなくなってきたのも事実であるから
「また次に来たときにボトルを飲めばいいから」
とマサルと二人でなだめながら店を出た。

筋の通らないことが嫌いな性格ではあったものの、人に対してあれほど強く意見をしたり詰め寄ったりするノブアキを初めて見たし、10年以上の付き合いで知らなかった一面を見ることになったことに少なからず驚いたりしたものだ。

あの日、あの時、ノブアキがどうして激情したのか謎である。

そしてその後、気分なおしに三軒目の店に向かったのか、空気が悪くなったので解散してしまったのか、記憶が定かではない。