北海道に帰ってきたのが原因なのか、このところ良く少年時代のことを思い出す。
やはり強烈な印象として残っているのはマサルと同じクラスで過ごした中学二年と三年のころで、他のどの時代よりも楽しく、そして虚しく、心も体も子供から大人に変わるその期間、生や性について考えたり悩んだりしたものである。
自分は生と死に関して深く興味を持ちつつも当然のことながら答えなど見つかるはずもなく、いろいろ考えているくせに命を大切にする訳でもなく、「いつ死んでもいいや」 などとうそぶきながら不良仲間とムチャクチャなことをして遊んだり優等生のマサルと付き合ったりと実に不安定な生活を送っていた。
徹底的に悪くはならないように自分を引っ張ってくれたり叱ってくれたりしながら見守ってくれたのは以前に書いた通り当時の担任とマサルだった。
そのマサル自身に悩みがなかったのかと言えば、同じ思春期を過ごす者として一人だけ安穏とした日々を送っていたはずもなく、マサルはマサルなりの悩みがあったに違いない。
常に自分のお目付け役を演じ、実年齢も精神年齢も上であったマサルに何か相談されることなど数えるくらいしかないが、こと恋愛に関してはとことん臆病で慎重であるがゆえに何度か相談されたことがある。
修学旅行で行った先の宿、みんなが寝静まってからもマサルと二人、延々と話し続けて空が白々と明るくなってきたこともあった。
宿についてから食事をとり、就寝前までは恒例のマクラ投げやら何やらでドタバタと暴れまくり、他の同級生たちは疲れきって眠ってしまった。
何せ担任が火災報知器を指差し、「あれはホコリも感知するんだから暴れたら警報が鳴るぞ」 と脅かされていたのを無視し、天井にある器具にビニール袋をかぶせてテープで固定し、ホコリを遮断してまで騒いでいたのである。
おまけに深い時間になると電気を消して廊下に見張りを立たせ、有料テレビの硬貨投入口に針金を突っ込んで操作しながらアダルトビデオを鑑賞し、夜遅くまで目をランランと輝かせていたのである。
深夜の時間帯になると一人、また一人と脱落者が現れはじめ、とうとう起きているのはマサルと自分だけになってしまった。
そこでボソボソと話しをしていて同級生を起こしてしまうと申し訳ないことと、あまり人に会話の内容を聞かれたくないこともあり、二人でそっと部屋を出て各部屋にある玄関のような狭い場所にあぐらをかいて話し続けた。
今から思えば実にたわいのない話しだったり悩みだったりするのではあるが、マサルが想う彼女の真意がどこにあるのか、仮に彼女がああ思っていたら、こう思っていたらなどと、現実と想像、妄想の中で遊んでいた。
当たり前のことではあるが、その会話で答えなど見いだせるはずもなく、鳥のさえずりを聞いてから布団にもぐりこみ、それから泥のように眠った。
翌日からの移動中や観光地めぐりなど、一切の記憶が残っていないのは言うまでもない。