気配り

今日の午前中、買い物をしたスーパーでレジを担当していた女性が、あまりにも仕事のできる人なので深い感動すら覚えてしまった。

近くにイオン系のスーパーができたために客足が減り、なかなか黒字化できないそのスーパーは普段から割りと空いていてレジが混雑している場面に遭遇したことがあまりない。

ところが今日は新聞折込チラシが入っており、その特売が魅力的だったのか、足を踏み入れたことがない土曜の午前中はいつもこんな感じなのか定かではないが、複数台あるレジはどこも混雑しており、すべてにお客さんが並んでいる。

最初、『お買い物日記』 担当者と二人で 2番のレジに並んで順番が来るのを待っていたのだが、どうもレジ係の人の動きがどんくさい。

知り合いなのか、お客さんと話をしたり笑ったりしていたのだが、バーコードのない商品をパネルから入力する際、なかなか対象の品物を見つけられず人差し指がパネルの上を行ったり来たりしている。

それが一つや二つならまだしも、バーコードのない商品を手にするたびに同じことを繰り返す。

そして、やっと会計が終わって次の人の順番になったとき、マニュアル通りの
「お待たせしました」
としか言わず、自分がどんくさいがために他より時間がかかって申し訳ないという謝罪がない。

見ているとイライラしてきたので、1番のレジに移動して列に並びなおした。

そのレジの女性は 2番の人と違ってとても手際が良く、次から次へとバーコードを読み込ませ、それがない商品もパネルから素早く見つけて入力を済ませる。

名ドラマーのように右手と左手が別の生き物のように違う動きをして、その流れるような動作は芸術のようでもある。

その途中、二つ隣の 3番のレジから
「両替お願いしま~す」
という声がした。

目の前の 1番レジの人もそれを聞き取っていたのだろう。

少し時間が経っても 3番レジが両替できていないことを察すると
「3番の両替をお願いしま~す」
と大きな声で叫んだ。

その声に反応して少し遠くにいた男性が 3番レジに近づいて行く。

驚いたことに、彼女は一度たりとも 3番の方に目をやっていないのである。

気配とか音だけでまだ両替されていないことを察して、困っているであろう 3番レジの人を助けているのだ。

その時、最初に自分たちが並んでいた、どんくさい 2番レジの人がとうとうパネルから見つけられない商品があったらしく、レジを離れて売り場まで値段を見に行っていた。

いったいこの差は何だろう。

1番レジの人はお客さんの精算を済ませ、次の人の番になったとき
「誠に申し訳ありませんが少々お待ちください」
と言ったかと思うと、ダッシュしてサービスカウンターに行き、何やら黒いカバンを持って 3番レジに行き、そこで両替の作業をして再びサービスカウンターにカバンを運び、猛スピードで 1番レジに帰ってきた。

どうやら先ほど 3番レジに寄って行った男性では役に立たず、両替が終わっていなかったらしいのである。

そして、今回もその状況を見ることなく背中で感じて迅速な行動にでたことに驚かされる。

さらに、どうして男性社員が役に立たず、サービスカウンターの中にいる女性社員も気を利かせて両替してあげないのか不思議でならず、腹立たしさすら覚えてしまった。

飛んで帰ってきた 1番レジの人は
「お待たせして申し訳ありませんでした」
と心からお客さんに詫びて再びレジの作業を続ける。

自分たちの前のお客さんは高齢の方で、買った物を自宅へ配達するこを希望されていたのだが、それを聞くやいなや手早くレジの横から受付の伝票を取り出し、お客さんに書いてもらっている間に精算の作業を続けるという要領の良さだ。

自分たちが買ったものも手際よく精算を済ませてくれて、クレジットカードの扱いも見事にこなしてくれた。

その店は最新の機器が導入されていないので、カード払いにすると伝票発行したりサインを求めたりと、現金を扱うより手間がかかる。

しかし、その一連の作業も彼女の手にかかればスイスイ進み、後ろに並んでいる人に迷惑をかけない時間で処理してくれた。

最初に並んでいた 2番レジではやっと二人目に並んでいた人の番になり、相変わらず何か話して笑いながらモタモタと作業している。

この店において 1番レジの彼女の能力は秀でており、他の店員の要領の悪さや気配りのなさが逆に際立ってしまうのは幸か不幸か。

それほど彼女の仕事ぶりは光っていた。

あまりの手際の良さと気配りの見事さに感動し、店を出てからも 『お買い物日記』 担当者と二人、彼女を褒め称えながら家路に着いたのであった。