犬のいる風景

04/03 朝の犬が・・・

早朝、カラスが周りにてもカーカー鳴いても身動きひとつしなかった犬。

自分の毛をくわえたカラスまでいるのに。

それはとても見ていられない光景で、心苦しさはあったが散歩を続けるため再び歩き出した。

この一年、いつも見ていた姿が思い出される。

お買い物日記』 担当者は散歩中も涙を流していた。

そして寂しげに 「あの犬はこれからもあそこにいるよね」 と言う。

そう、犬はとても家族に可愛がられていた。

春には庭に花が咲き、その畑の中で寝ていても叱られなかった。

夏の暑い時期、敷地の奥にある車庫の前面を開放して風通しを良くし、日陰になっている入り口近くにつながれていた。

冬の寒い時期には小屋の中に毛布を敷いてもらい、風が強くても犬小屋の中に吹き込まないように囲いまで作ってもらっていた。

血統書つきの純血種ではく、単なる雑種の毛の長い大型犬だがその姿は愛嬌にとんでいて、とても親しみやすい。

最初の頃はこちらの姿を見るたびに 「ぼふっ」 と吠えて番犬の役目を果たしていたが、最近は見慣れたのか吠えることもなくなっていた。

まだ尻尾をふってくれたりする訳ではないが、立ち止まって手を振ってやると不思議そうな顔をしてこちらを見たりしていた。

その毎日のように顔を合わせていた犬に異変が起こったことは少なからずショックで、いつものように景色を楽しんだりしながら散歩をすることができなかった。

そして昨日、昼近くに外出した際、あのお宅の前を通った。

春の陽気だというのに、やけに空気が重く感じる。

あの場所、いつも犬が姿を見せてくれた場所、この一年間ずっと犬を見守った場所がゆっくりと近づいてくる。

さらに近づいたとき、飼い主である家のご主人が外にいるのが見えた。

花壇に向かって何かしている。

さらに進んで犬小屋が見える場所まで近づいたその時、ご主人がスコップを手にしているのが目に入った。

そして、そのスコップで花壇の横を掘っているのが見えた。

(え?どうして?) とか (やはり・・・) とか様々な感情が胸をよぎる。

ご主人は、ただ無表情に手を動かして穴を掘り続けている。

そして、そのご主人のかたわらには、犬の姿が・・・

・・・。

犬は穴を掘るご主人をボ~っと見ている。

・・・。

全速力で駆け寄って耳を引っぱり、その耳元で腹の底から
「おい!」
と突っ込んでやりたい気分だった。

なんと犬はピンピンしており、すっくと立ち上がってその大きな体を四本の足でしっかりと支えているではないか。

どうやら今朝は周りでカラスがカーカー鳴こうが、すぐそばをウロウロしようが相手にしていられないほど眠かっただけらしい・・・

もの凄く心配して損した。

そしてほっとしたり安心したのを通り越して腹が立ってきた。

そりゃあ勝手に早やとちりして心を痛めたのは自分だ。

勝手に悲しんで涙まで流したのは 『お買い物日記』 担当者だ。

しかし、いくら眠いからといって耳元でカラスがガーガー鳴き、自分の毛までくわえられているのに目を覚まさない犬がどこにいる!

野生のカケラもなく、本能もどこかに置き忘れてきたのか!

実に腹立たしいが、犬の動いている姿を見て本当に嬉しかった。

『お買い物日記』 担当者と二人、「も~っ!」 とか 「腹立つ~!」 などと言いながらもお互いに笑いが止まらなかった。

老犬なのでこれから何年も生きられるはずはないが、今後もできるだけ長生きして目を楽しませていただきたい。

そして、二度とこのような心配をさせないでいただきたいと願っている。