BMの怪

1F、2F は一階、二階であり、B1、B2 は地下一階、地下二階。

そんなことは常識として知っている。

しかし、この病院には BM という階がある。

最初はエレベーターの表示がおかしくなっていると思っていたのだが、決してそのようなことはなく、地下一階と二階の間に確実にそれは存在するらしい。

BM の M はミドルの M なのではないかと想像しているが、まだ確証が得られずにいる。

それというのも、まだこの目で BM を見たことがないからだ。

病院の案内図を見ても BM とは記されておらず、エレベーターの操作ボタンにも BM という二文字が見当たらない。

それなのに、どうしてエレベーターは BM に止まるのか。

『お買い物日記』 担当者と二人、この目で BM を確かめようと、階段で地下へと進んでみた。

ソロリソロリと階段を下りると他のフロアとは異なる薄暗い廊下があり、鉄の扉が行く手を阻む。

どうするべきか迷っていると音も立てずに鉄の扉が開き、中から白髪の男性が姿を表した。

少し戸惑いながら扉のカギをしめ、「どちらに行かれるんですか?ここから先には進めませんよ」 と声をかけてくる。

「いえ、地下二階の散髪屋が、あの、その〜」 とドギマギしながら応えると、「ここは違います、ご案内します」 と、その場を追い立てるように階段を上らされる。

地下一階の廊下に出ると、遠くを指差し 「あちらの階段から地下二階に下りてください」 と言って、ジッとこちらを見る。

仕方なく言われた階段に進み、下に降りると患者用の大浴場や散髪屋さんがあり、さっきとは異なる明るい雰囲気のフロアだ。

その階段の途中に BM という階はなく、B1 の次は B2 だった。

そこで探検は中止となってしまったので、まだ BM 階にはたどり着けていないのである。

BM には解剖室とか霊安室があるのではないかと勝手に 『お買い物日記』 担当者と話していたのだが、それらは地下一階にあった。

最近になって 5台あるエレベーターのうちの、主に患者さんを運ぶ 1台に B2M というボタンがあることに気がついた。

しかし、そのボタンは他のものと明らかに色が異なり、押してくれるなオーラを思いっきり漂わせている。

そのボタンを押せば BM に行ける可能性が極めて高いことは分かっているが、誰かに見つかって叱られるのではないかと思い、指をのばすことができずにいる。

あと少し、あと数センチ指をのばせば…。

ほんの少しだけの勇気があれば……。

(携帯電話より)