マサルは超雨男である。 『
マサルノコト scene 5』 に書いたように、遠くから我家まで頻繁に遊びに来ていたのだが、マサルが来るたびに天気が優れない。 最高で曇り空、だいたいはグズグズした空模様。 ひどい時には、マサルが近づいてくると空に暗雲がたれこめ、落雷が轟き、ゴールデンウイークだというのにバラバラと直径 1cm はあろうかという雹 (ひょう) が降ってきたことさえある。
当時勤めていた会社の仲間にもマサルが雨男だということが広く知れ渡り、連休の前などは 「友達は来る?」 などと質問を受ける。 「来るって言ってたよ」 と答えようものなら 「お願いだから来ないように言ってくれない?」 と手を合わせてお願いされる。 事情を聞くと、連休中に外出するので雨が降ると困るのだと言いだす始末だ。
そんな事情でマサルに断りを入れるのも何なので、放っておくと連休中は案の上の雨である。 休み明けには 「どうして断わってくれなかった」 と恨みのこもった抗議を受けることになる。 そんなことを言われてもマサルが来ると必ず雨が降ると確定している訳でもなく、天気が悪かったのはマサルのせいではないだろうと反論するのだが、誰かが統計をとったところ、悪天候の確率は 70%に達するという。
薄々はマサルが雨男であるような気がしてはいたが、マサルが来た際に天気が良くない確率がそんなに高いとは認識していなかった。 そのことを本人に伝えると、心外だと言わんばかりに機嫌の悪い声で文句を言っていたが、悪天候になる確率を教えてやると、「そう言えば晴れた日にお前と会った記憶がない」 と真剣に悩み始めた。
人間というものは、自分のことを客観的に見つめ直し、その状況を正確にわきまえた方がよろしい。 この際だからマサルも自分が雨男であることを認めるべきである。 「人間、諦めが肝心だ」 と言って聞かせ、渋々ながらも雨男であることを認めさせた。 最初はテンションが下がっていたものの、ある時期から気持が吹っ切れたようで、開き直りにも近い状態となった。
「昨日は出張で○○まで行ったけど、やっぱり雨でよ〜」 などと自慢の電話をかけてくる。 仕事のため、とある島ままでフェリーで行き、とんでもない悪天候になって船が欠航したため 2日間ほど足止めをくって島から帰って来れなかったなどという自慢話を聞いたのも一度や二度ではない。 とにかく各地で 『嵐を呼ぶ男』 は絶大なるパワーを発揮していたのである。
ある日、マサルは我家に遊びに来ていた。 夜になって腹も減ってきたので近所の居酒屋まで行くことにした。 道を歩いていると、やっぱり空はどんよりとし、ポツポツと雨も落ちてきている。 「やっぱりな〜お前のパワーはすごいな〜」 などと言いながら居酒屋で腹一杯になるまで食事をし、気分が良くなるまで酒を飲んだ。
帰り道、店を出るときには止んでいた雨が再び降りだし、ポツポツと頬をぬらし始めた。 「どうやら雨はお前をぬらしたいらしいな」 などと言いながら歩いていると、酔ったマサルが大声で 「どうせなら中途半端に降っていないで思いっきり降れ!」 と叫んだ。 すると恐ろしいことに、それから 1分も経過しないうちに雨足が強まり、鬼のような勢いの土砂ぶりになった。
ずぶぬれになって家に帰り、「お前は自分のパワーを分かっていない!」 「余計なことをして土砂ぶりにするな!」 などと訳の分からない説教をしながら濡れた服を着替える。 マサルは少しションボリしながら 「俺だってまさか大雨になると思わなかったしよ〜」 と弁解していた。
会社でその話をすると、みんなは 「恐ろしや、恐ろしや」 とざわめき始め、オロオロとうろたえている。 それ以降、マサルは 『レインマン』 と呼ばれ、恐るべき雨男として長く語り継がれることになったのであった。