8/13日は、
『独り言』 にも書いたように不思議な体験をした。 我家が雨の境界線にあり、こちら側は大粒の雨、目の前は道路も家の屋根も乾いたままだったのである。 その時に思い出したのだが、中学二年生の頃に同様の経験をしたことがある。 それは今回よりも格段に幻想的な世界に身を置き、あまりの美しさに呆然としたほどだった。
夏の終わりに校内のマラソン大会があった。
過去の雑感に何度も書いているように、当時は不良をしていたので本来であれば真面目に参加するはずがない。 普段はスポーツなどしていないので長距離など走れるはずもない。 それでもその日に限って参加したのは、それから不思議な光景に出会うことを予感していたのだろうか。
スタートラインに立ち、ボ〜ッと空を眺めると西の空に黒い雲が見える。 (こりゃぁ雨が降るな〜) などと考えていると、スタートの合図が鳴った。 マラソン経験のない者が唯一とれる作戦で、ペース配分などまったく無視して体力の続く限りガムシャラに走った。 短距離は得意だったので、もの凄い勢いで飛ばしまくった。 しかし、全力疾走できるのは数百メートルが限界である。
すぐに息が切れて足が止まる。 するとすぐに普段から走りこんでいるバスケット部だのバレー部だのの奴らに追い越された。 それでも最初のダッシュが効いたのか、後続の奴らが追いついてくる気配がない。 とりあえず、走れるところまで走ってみる気になり、すでに小さくなりかけている先頭集団の背中を追った。
3km ほど走っただろうか。 先頭集団の背中など肉眼で見えなくなってしまい、コースの具合で後続の姿も見えない。 大きな川の堤防を一人でトボトボと走っていた。 すると、にわかに空が暗くなり、大粒の雨が顔をぬらす。 ところが、堤防の右端は地面が乾いたままだ。 不思議に思いながらもそちらに寄ってみると、確かに雨は降っていない。
そして、足元を見ていた目をコースの先に向けると、ずっと先まで雨のカーテンができている。 まるで天から降りる滝のような、オーロラのような白くてユラユラした雨のカーテンが何百メートルにも渡って揺らめいているのである。 あまりの美しさに息をのみ、そのまま立ちすくんでしまった。
何分くらい見ていただろう。 長く感じただけで、実際には数十秒だったのかもしれない。 その幻想的世界は急にバランスを崩し、ドザザーッ!という雨が頭の上から降ってきた。 雲の動きか形が変わり、立っている場所が境界ではなくなってしまったのだろう。 そして、後続の奴らが次々に自分を追い越して行く。
自分も慌てて走り出し、隣を走っている奴に 「今の見たか?」 と聞くと 「そんなことがあるはずがなかろう」 と相手にしてくれない。 誰に 「雨のカーテン見たか?」 と聞いても 「うるさい」 とか 「バ〜カ」 とか言われ、まともに話を聞いてもらえなかった。
結局、そのマラソンでの順位は中の下といったところで平凡な結果に終わった。 友人からは 「あんなに張りきってダッシュしたくせに」 と馬鹿にされる。 必死になって 「違う!途中で雨の境界線に立ってな。それがスゲー綺麗でな。」 と説明するのだが、「遅かったことを訳の分からん話でごまかすな」 と叱られてしまった。
誰に何と言われようと、天から舞い降りる光のカーテンを見たのである。 それは長いこと誰にも信用してもらえなかった。 しかし、先日の経験から 『
お買物日記』 担当者だけは信じてくれるに違いない。