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マサルノコト scene 5』 に 「自分からマサルが暮らす街に行ったことなどない」 と書いたが、実は一度だけ行ったことがある。 それは、わざわざマサルを訪ねに行った訳ではなく、ついでに立ち寄っただけだ。
過去の雑感に何度か書いているように、出不精となった今では信じられないほど車に乗って遠くまで出かけたりしている時期だった。
その前日から仲間 6人と 2台の車に分乗し、行き先も決めず、当てのない旅をしていた。 夜がふけて夜中になっても走り続け、気が付くと住んでいた町から 400km 以上も離れたマサルの住む街にたどり着いていた訳だ。 その街は
7/22 の雑感に書いた祖父母が暮らしていた街でもある。 自分には土地勘があるので仲間に市内を案内し、祖父母が住んでいた場所も見に行った。
そして、そこはマサルの住む街であることも思い出し、すでに仲間内では有名人だったマサルの家を訪ねてみることで意見の一致をみたのである。 しかし、具体的にどこに住んでいるのか分からなかったので、当時は各所に点在していた電話ボックスに入り、マサルの住所を探ろうとしたが、電話帳には記載されていなかった。
そこで悪い頭をフル回転させて年賀状に書かれていた住所を思い出そうと必死になった。 おぼろげながら浮かんできたのは 『〇〇町』 という市内の地名だ。 とりあえずはその町名の場所まで移動し、あとはヒマにまかせての捜索活動だ。 『
マサルノコト scene 2』 に書いた状況から、幹線道路まで徒歩数分の距離であること。 そして、その時の会話から自分が知っている場所からもアパートが近いことは推測できる。
マサルが乗っている車の種類や色も分かっているので、ある場所に的を絞って車の捜索を開始した。 30分ほど探しただろうか、マサルの物と思わしき車を発見し、郵便受けを確認すると 2階の部屋にマサルの名前を見つけた。 別行動していたもう一台の車に乗った仲間を呼び寄せ、合計 7人でソロリソロリと階段を上る。 その日は日曜日、時間は午前 7時。 外出しているはずがない。
ドアを数回ノックしたが、マサルは現れない。 強く、そして長くドアをノックし続けると、寝ぼけた目をしたマサルが顔を出した。 「ど、どうした?」 と驚いているマサルを無視し、狭いアパートの中に合計 7人が次から次へと乱入する。 部屋に入るなり、「腹が減った」 と食卓に置いてあったパンを貪り喰い、「のどが渇いた」 と冷蔵庫の中のものをゴクゴク飲む。
マサルは呆気にとられて部屋の中央に立ちすくんだままだ。 まるで立場が入れ替わったように 「まぁ座れ」 とマサルをイスに座らせ、部屋の中を物色する。 オーディオ関係の棚の中に聴きたかった CD を発見したので 「これ借りていくぞ」 と何枚か取り出したりしていた。 そして、今が旅の途中であること、夜通し走っていたので休憩を兼ねて訪ねてきたことなどを話し、小一時間くらいでアパートを出て、状況を完全には把握できず、まだボ〜ッとしているマサルを残して街を後にした。
その夜、マサルから電話があり、「何か俺、変な夢を見たんだけどよ〜」 と言い、「朝早くにお前が来てな〜」 と今朝の出来事を淡々と話し始めた。 「そうか〜悪い夢を見たな〜」 などと適当な相槌をしていると 「ふざけるなー!」 と急に怒り出し、「せっかくの休みだったのに早起きさせられた」 とか 「人の寝込みを襲うとは何ごとぞ」 などと文句を言う。 少し話を聞いていたが、最終的には 「うるさい!」 と言って電話を切ってやった。
そしてその後、外で車の止まる音が聞こえるたびに、悪夢の再来かと怯える日々が続いたマサルなのであった。