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雑感何となく感じたこと雑感何となく感じたこと

ゆかいな仲間 二人目 ゆかいな仲間 二人目

  若い頃、ずいぶん年上の友達でイシヤマさんという人がいた。 車の A級ライセンスを取得し、トヨタ社のテストドライバーをしていたのだが、知り合ったときには植木屋さんをしているという変わった経歴の持ち主だ。 テストドライバーにとって生命線でもある視力が極端に低下し、将来に不安を感じていたときに植木屋さんをしている御尊父が体調を崩されたので家業を継いだという訳だ。

  自宅に遊びに行ったときにテストドライバー時代の写真を見せてもらったが、どの写真を見ても颯爽としている。 日本人離れした彫りの深い顔に日に焼けた黒い肌。 イシヤマさんは 「これが俺の全盛期だった・・・」 と遠い目をして言う。

  当時は女性にモテまくっており、彼女を作るのに苦労などしたことがないらしい。 確かにそれはそうだろう。 日本人離れした容姿に職業はテストドライバーである。 周りの女性が放っておくはずがない。 ところが、容姿は変わらないのに植木屋さんになった途端に女性と縁がなくなり、当時 31歳だったのに彼女いない暦 5年になってしまったらしい。

  「この商売になってから声をかけてくるのは植木の手入れに行った家のオバチャンだけだ」 と言って嘆いている。 中には色目を使ってくる主婦もいるらしいが、多くの場合は手入れの終わった植木を見ながら何だかんだと話をして、お茶をすすりながら時間だけが過ぎて行く。

  「俺の青春を返せ!」 と言い、「どうして視力がおちたのかな〜」 と悔しそうにしている。 過去の雑感に何度か書いたように、視力の衰えを知らない自分はイシヤマさんの辛さも知らずに 「そうだね〜どうしてだろうね〜」 などと適当に相槌をうちながら出されたセンベイをボリボリと食べているのだった。

  そんなイシヤマさんのストレス解消法は、車に乗ってビュンビュンと走り回ることだ。 自分もそれに同乗させてもらうのが大好きだった。 何せ A級ライセンスを保有する元テストドライバーなので、すばらしい運転技術である。 多くの場合は峠道を疾走するのだが、急カーブ、急勾配が多い道をアクセルとブレーキ、エンジンブレーキを駆使してもの凄い勢いで走る。

  跳っ返りの若者の車が必死に後について来ようとすることもあるが、誰も追いつけるはずがなく、ついてくることすらできない。 途中で休憩していると、やっと追いついてきた車から髪が金色の兄ちゃんが降りてきて 「あんたスゲーよ」 と声をかけてくるのだが、運転手が日本人離れをした顔立ちのオッサンだと知って驚くことも良くあった。

  ある日、いつものように車に乗せてもらい、峠道をビュンビュン疾走していた。 自分も助手席で 「ヒャッホ〜」 だの 「ヒュ〜ヒュ〜」 だのと奇声を発しながらスピード感を楽しむ。 かなり前方に一台の車が走っているのが見えたが、こちらが鬼のようなスピードで走行しているので見る見るうちに近づいてくる。

  「一気に抜くぞ!」 とイシヤマさんがアクセルを踏み込んだ瞬間、その車の天井で赤色ランプが回転を始めた。 「うわぁぁ〜!パトカーだぁ!」 と叫び、慌ててスピードを落とすイシヤマさん。 そのまま停車できそうなスペースに車を寄せ、エンジンを切って二人で寝たふりをしていた。 10分経っても 20分経ってもパトカーが来なかったので、ノロノロ運転で峠を下って行った。

  街の灯りが見え始め、人心地ついたところで後ろの車の天井で赤色ランプが回転を始めた。 パトカーは見逃してはくれなかったのである。 当時の警察は後ろから来る車の速度を測定する手段を持っていなかったので、スピード違反の切符を切られることはなかったが、「いったい何という走りをするのか!」 とこっぴどく叱られてしまった。

  その時はしゅんとして話を聞いていたが、それからも再三にわたって峠道を疾走していたのは言うまでもない。

2006 / 07 / 08 (土) ¦ 固定リンク


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