先週の続きになるが、胸が痛かった同時期に体育で水泳の授業があった。 人より速く泳ぐことはできないが、とりあえずは沈まずにプカプカ浮いていることも、25m プールの端から端まで泳ぐことだってできた。 平泳ぎ、背泳ぎ、クロールなんでもござれだったのだが、その時は胸が痛くて 2-3m しか泳ぐことができなかったのである。
泳げなかった者が急に泳げるようになることはあっても、泳げたものが急に泳げなくなることなどないので、先生は 「まじめに泳げ!」 と顔を真っ赤にして怒っている。 我慢してチャレンジするのだが、胸に激痛が走ってどうしても泳ぐことができない。「胸が痛い」 と訴えても、先週の縄跳びの時と同様に 「普段は手がつけられないほど元気なくせに嘘を言うな!」 と ”けんもほろろ” 状態だった。
先生は泳げることを知っていても、同級生は去年まで自分が泳げていたことを忘れて、「あいつは泳げないのではないか」 と疑いの目で見てくる。 そして、タイミング悪く風邪をひいてしまったので水泳の授業を休むことになった。
以前の雑感にも書いたが、当時は本当に病弱で、年がら年中風邪をひいていた。 両親とも仕事をしていたので看病には相当疲れたと聞く。
しかし、子供の身としては風邪をひいていても暑い日にはプールに行きたい。 共稼ぎで親が家に居ないのをいい事に、夏休みなどは勝手に ”海パン” を持って出かけ、朝から晩までプールで遊び、体が冷えきって夜には鼻水ズルズル状態になってしまう。 濡れたままの海パンが見つかってプールで遊んでいたことが発覚し、こっぴどく叱られる羽目になる。
授業でプールに入るのも休みたくないので、こっそり海パンを持って登校したりしたものだから、親が職場から学校に電話をし、授業を休ませるよう連絡したりするのだが、その時もそうだった。 胸が痛いものの、プールには入りたいので授業を受ける気満々で登校したのだが、先生に 「今日は休め」 と言われる。 理由を聞くと親から電話があったと言うのである。
仕方なくプールサイドで見学していると、同級生から 「泳げないから授業をさぼっているんだろ〜」 と馬鹿にされる。 放課後や休日は先生や親の目を盗んでプールで遊んでいるものだから、余計に 「授業だけ休んでいる」 と疑いの目で見られてしまうことになる。 しまいには先生までも、「授業以外だと風邪が治るのか?」 と言い出す始末だった。
今から思えば疑われて当然の行動をしていたのだが、子供の頃はプールで遊びたい一心で、人からどのように見られるかなど考える余地もなかったし、真剣に泳ぐのでなければ胸に激痛が走ろうともプールの中でチャプチャプ遊んでいる分には何の問題もなかったのである。
そして、いつしか胸の痛みは治まり、クロールをしても平泳ぎをしても激痛が走ることはなくなった。 ある日の授業で 25m を泳ぎ切ると、同級生は 「あれ?」 やら 「おぉ!」 やらと驚きの声をあげる。 先生は憎々しげに睨みながら 「う〜む」 と腕組みをしていた。
「あいつは泳げない」 とか 「泳げないのが恥ずかしくて授業を休んでいる」 という同級生から貼られたレッテルは見事にはがすことができたが、時既に遅しで、何メートル泳げるか記録するという体育の授業は終了しており、3m という不名誉な公式記録だけが残ってしまうことになってしまったのである。