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豪傑列伝 その 2 豪傑列伝 その 2

  若い頃に知り合ったオッサンも豪傑な人だった。 車に乗ってビュンビュン飛ばしているときにスピード違反の測定をしているのに気づき、途中で道を曲がったらパトカーが追いかけてくるのは分かっていたので車を止めて寝ていたという。 当然、警察官がやってきてスピード違反だと言われたが、知らぬ存ぜぬと言い張ったらしい。 さすがに見逃してくれはしなかったらしいが、えらい神経の持ち主である。

  そのオッサンが駐車禁止の道路に車を止めて喫茶店でコーヒーを飲んでいると外から 「車を移動しなさい」 という声が響いてきた。 普通であれば慌てて車を移動するところだが、そのオッサンは悠々とタバコを吸っている。 婦警さんが店にやってきて 「車の持ち主はいませんか?」 と聞いたところ、オッサンは素直に手を上げた。

  「駐車違反だから移動してください」 と言われたオッサンは、あろうことか 「免許証を持っていない」 と言う。 婦警さんの目が鋭く光ったのは言うまでもなく、「無免許ですか!?」 とオッサンを問い詰める。 オッサンは 「違う。無免許じゃなくて免許不携帯」 と答え、途中で気が付いたから車を止めて喫茶店に入り、家族に電話して免許を届けさせているところなのだと説明した。

  それを聞いた婦警さんは一応は納得したが、車を止めている場所は駐車禁止だから移動するようにと言う。 オッサンが 「免許不携帯で運転しても良いのか?」 と聞くと 「う〜む」 と考え込んでいる。 それならばと、オッサンから車のキーを預かり、婦警さんが運転して車を喫茶店の駐車場に入れてくれたのだが、彼女が帰った後でオッサンは舌を出しながら免許証を見せてくれた。

  忘れたというのは大嘘で、実はちゃんと持っていたのである。 周りの人たちから 「どうして嘘をつくのか」 とか 「どうして素直に車を移動しないのか」 と非難を浴びせられていたが、オッサンは一言 「面倒だから」 と言い放った。 普通であれば警察官を相手に押し問答をする方が面倒だと思うのだが、オッサンに言わせると 「若い姉ちゃんをからかうのは面白い」 のだそうだ。

  友人 C の父上も豪傑な人だった。 ある日、酒に酔って階段を踏み外し、顔面を階段の角に直撃してしまい、右目を失明してしまった。 普通であれば相当なショックを受けると思うのだが、父上はあまり気にせず、すぐに仕事に復帰して周囲を驚かせた。 片方の目しか見えないと慣れるまで距離感がつかめず、車酔いのように気分が悪くなるのだそうだが、ご本人は 「酒を飲まなくても酔える」 と言っていた。

  その父上が 「ノドに魚の骨が刺さっているようだ」 と何日もご飯を丸呑みしたりしていたのだが、いつまでたっても違和感があるので病院に行って検査したところ、なんと食道ガンと診断されてしまった。 さすがにこのときばかりは父上もショックを受けたらしいが、摘出可能と聞くと、すぐに入院して 「さっさと切ってくれ」 と言ったらしい。

  手術は無事に成功したが、食道を摘出してしまったため右目の光に続いて声も失ってしまった父上だったが、それにも動じることなく筆談で息子である友人 C に 『タバコが吸いたい』 と書いて見せた。 術後は口から栄養を摂取するのではなく、胸から出た管を通していたのでタバコなど吸えるはずもなく、ましてやノドの手術をしたのだからタバコなど許可される訳がない。

  それでも 『どうしても吸いたい』 と書いて見せるので友人は自分でタバコを吸い、胸の管に煙を入れてやった。 父上はしばらく目を閉じていたが、『美味しくない』 と書いて見せたという。 その後、退院してからも骨折したりと、怪我などが絶えなかった人だが、今もご存命で細かいことを気にせず悠々とした人生を送られている。

  たまたま知り合いに豪傑な人が多いだけなのか、類は友を呼ぶの典型であるのかは定かではないが、豪傑列伝はさらに続く。

2005 / 04 / 16 (土) ¦ 固定リンク


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