駅構内人間模様 II 駅構内人間模様 II
それにしても暑い日が続いている。梅雨冷で少しは涼しくなることを期待していたのに季節はずれの台風が南から暖かい空気と湿気を運んできてしまったようだ。水害を引き起こすわ竜巻を引き起こすわと、暴れ放題の台風で本当に迷惑な奴である。
この台風の影響で各交通機関も大幅に乱れていた。ご多分に漏れずJRのダイヤも乱れていたわけだが、どうして”おっさん達”はワガママなのだろう。電車の到着が遅れたためにホームに人が溢れかえり、これ以上は危険だと駅員さんが判断したため階段のところにロープを張ってホームへの入場を制限していた。電車の一本や二本見送ったところで死ぬわけでもないのに一部のおっさん達が駅員さんに文句を言っている。
やれ 「電車が発車してしまったらどうする」 だの「何の権利があって制限するんだ」だのとえらい剣幕である。なかには駅員さんにつかみかかる勢いで激怒しているおっさんもいる。駅員さん達はホームにいる人の安全を考えて制限しているのに、それこそ『何の権利があって』偉そうな口をきいているのだろう。何の制限もなくホームに人を入れて線路に落ちてしまうような事故が発生したら誰が責任を負うことになるのかを考えたら誘導に素直に従うべきである。
そんなおっさんに限って後先を考えずに行動して事故が発生したら駅側の対応に文句を言うに違いない。自分で責任を負えないのであれば責任を持って行動している人に従えば良い。その人に対して文句を言うなどもってのほかである。驚いたことに聞き分けのないおっさんにスーツ姿のサラリーマンが多い。会社で責任ある仕事をしたことはないのかと疑問を感じてしまった。
そろそろ梅雨も明けたのか日に日に気温が上昇している。これだけ暑いと電車の中で人が近くにいるだけでも鬱陶しいのに若いカップルは電車の中、駅構内でベタベタとくっついている。日本人が人前でも平気でベタベタできるようになったのは何時からだろう。とにかく周りのことは目に入らないようで、どっぷりと二人の世界に入り込んでいるようである。
これからどれだけ長い別れが待っているのか知らないが、この暑い最中に改札の前で”ひし”と抱き合って離れようとしないカップルも多い。戦争に行って生きて帰ってこれるのか分からないというような大袈裟さである。新幹線のホームや改札であれば遠距離恋愛かもしれない。次に会えるのは数週間先のことになるのかもしれないと想像できるが、ど〜ってことない一般の改札でそれほど長い別れが待っているとも思えないのであるが、本人達にとっては少しの時間でも離れ離れになっているのが辛いのであろう。
そんな仲の良いカップルとは対照的になにやら”もめ事”があるらしいカップルもよく見かける。少し前に目撃したのはカップルと言うより中年の夫婦のケンカだった。後ろから女の人の怒鳴り声が近づいてきたので何事かと振り返ってみると、鬼のような顔をして大声で怒鳴りながら歩いてくる奥さんと、その後ろをうつむきながらトボトボ歩いているヤギのような顔をした旦那さんだった。何をやらかして怒鳴られているのか分からないが、情けない顔をして両手でカバンを持ちながら小さくなって奥さんの後を歩いている。
人の目もあるのだから少しは加減してあげたら良いのに奥さんの怒りは延々と続き、人ごみを掻き分けながらズンズンと歩いていく。「アホ」だの 「どうしようもない」 だの 「ついて来んな!」だの罵詈雑言を浴びせられながらも下を向きながら後ろにしたがっている旦那さんの姿が印象的だった。
えらいものを見てしまったと思ったが、派手な喧嘩の方がマシなのかもしれない。中には険悪なムードを漂わせながらお互いに言葉を発せずにジーっと睨み合っているカップルもいる。二人の冷めきった目からは”絶対に許してあげない光線”が出ている。睨み合っていても解決しないのだから、何がいけないのか、なぜ怒っているのか話し合えば良いのに何も話そうとしない。許せないのであれば別れてしまえば良いのに、お互いにその場を動こうともしない。いつまでも見学しているヒマはないので、そのまま通り過ぎてしまったが。あのような陰険な喧嘩の場合、どうやって関係の修復を図るのか不思議に思ってしまった。
暑くなると人はイライラするようで、怒りっぽくなってしまうのかもしれない。この前も地下鉄駅の階段を上っていたら後ろからおっさんの怒鳴り声が聞える。振り向くと一番後ろに怒鳴っているおっさん、その前にスーツを着たサラリーマン、その次に階段を駆け上る若者、そして自分という四人だけしかいない。よく聞き取れなかったのだがおっさんは「なんじゃかんじゃ」 と怒鳴っている。
階段を駆け上がっていた若者が急に Uターンして「俺に言ってるのか!?」と言いながら階段を駆け下りだした。するとそのおっさんは甲高い声で「いやぁ〜違う違う」と言いながら笑顔まで作っている。すると今度はスーツ姿のひとが「なら俺か!?」と言っておっさんの方を見た。おっさんは「いやぁ〜あ〜」とシドロモドロになって目も泳いでいる。
階段には四人しかいないわけだから残るのは自分だけである。そのおっさんに何かした覚はなかったが「じゃぁ俺か!?」 と言ってやった。するとおっさんは「いやぁ〜ははは」と情けない笑いを浮かべながら後ずさりで階段を降りていってしまった。なんだかよく分からなかったが、残された我々三人はお互いに顔を見合わせて勝ち誇ったように微笑みあったのであった。
暑い季節にはちょっと変な奴も出没するが、多くは普通の人々である。暑いのを我慢しながら電車に揺られて会社に行き、暑い中で働き、暑いのを我慢しながら家路につくというのを毎日繰り返して疲れている人々である。いつのことだっだか、そんな疲れを忘れさせてくれるような光景に出会った。窮屈な電車の中から吐き出されたOLやサラリーマンが改札に向かって歩いている。
その時、改札の向こうで「おとうさん、おかえりなさ〜い。おとうさん、おかえりなさ〜い。」と連呼する子供の声が聞えてきた。見ると父親を迎えに来たらしい3-4歳の女の子が直立の姿勢で「おとうさん、おかえりなさ〜い」と繰り返している。まるで電池式のおもちゃのようにピョコピョコはずみながら叫んでいる姿はとても可愛らしく、改札を通り抜けるサラリーマン達もみんなニコニコしていた。
気温は涼しいほうが良いに決まっているが、心だけは暖まるのも悪くはないものだと自分もニコニコしながらその子を見ていて、体から疲れがとれていくような感覚を味わっていたのであった。
2002 / 07 / 21 (日) ¦ 固定リンク