世の中 W杯一色である。大会前日までは静かなものだったのに、どこから湧き出てくるのか街中に青いユニフォームや Tシャツを着たサポーターがウロウロしている。誰かが右を向いたら一斉に右をみてしまうという、相変わらず極端な民族である。
何週か
前の雑感に書いたとおり ”にわか”サッカーファンも含めて日本国中が大騒ぎしている。当然のことながら自分も典型的な日本人であるわけなので、日本の試合結果は気になるし、勝てば喜んだりしている。仕事を休んでまで観戦はしないが、自宅にいる時に放送していれば TVの前で応援するし、日本に点が入ればパチパチと拍手したりもしている。
しかし、TVで映し出されるサポーターのように必死に応援したり歓喜の声を張り上げたり狂喜乱舞するまでには至っていない。昨日(6/14)の試合で日本が勝利を収め、グループリーグ 1位で決勝リーグ進出を決めたところ、全国各地で大変な騒ぎになった。すっかり大阪名物になってしまった道頓堀のダイブでは警察の制止を無視して 640人が川に飛び込んだとのことだ。
飛込みを止めるよう呼びかけていた警察もあきらめて、途中からは 「頭から飛び込まずに足から着水するように」 という呼びかけに変わったらしい。道頓堀川は水位が低いので頭から着水すると危険だし、川底には投げ捨てられた自転車などもあるので更に危険度が増す。怪我人がでなかっただけ ”マシ” なのかもしれないが、人に迷惑をかけるような行為は考えものである。
戎橋だけで 2,000人、周辺を含めると数万人の群集が押し寄せたために早々と店じまいする店も多かったと聞く。ミナミの店が金曜の夜に早く店を閉めなければならないのだから売り上げにも影響があるだろう。しかし仮に同じ時刻に試合があったらミナミも閑散としてしまうのだろうから結果は同じなのかもしれないのだが・・・。
いずれにせよ昨夜は各地で騒ぎが大きくなり逮捕者も出たのだから尋常なことではない。大会前に海外からやってくるフーリガンに怯える競技場周辺の住民や商店街の店主が取材を受けていた。警察もフーリガン対策には万全の体制で臨んでいた。一部のマスコミでは過剰警備との批判まで出ていたが、危機に備えるのが警察の仕事で、フーリガンを出国させない、入国させないという水際作戦との併せ技で大きな混乱もなくプログラムが進行できているのだと思う。
ところが ”敵” は内に潜んでいた。”にわか” サッカーファンやら便乗して騒ぎに参加する輩(やから)が全国各地に湧いて出てきたのである。もちろんサッカーを愛する純粋なサポーターもいる。前回(1998年)の W杯ではスタジアムで自分達が出した紙ふぶきなどのゴミを綺麗に掃除している日本人サポーターを地元(フランス)のマスコミが絶賛していた。
もちろん、今回も自分の出したゴミは自分で掃除する善良なサポーターだっているに違いないが、どうしようもないのは騒ぎに便乗することが目的の ”にわか” サポーターである。電柱によじ登ってみたり、花火を打ち上げてみたりと、日本代表チームが勝った喜びよりも、騒ぎに参加する方に喜びを見いだしてしまったようだ。
それほどサッカーファンではない自分でさえ日本が勝てば嬉しいのだから、ずっと応援しつづけている人たちの喜びは ”ひとしお” であろうと想像できる。全身を使って喜びを表現するのも構わないが、人に迷惑をかけるような喜び方をしても日本代表チームの面々は嬉しくないと思われるので ”ほどほど” にしておくべきである。
前置きが長くなってしまったが本題は ”あうん” の呼吸についてである。サッカーに詳しい訳ではないので余計に感じる事なのかもしれないが、競技中の選手達はどのようにして意志の伝達を図っているのか、とっても不思議に感じてしまう。もちろん声を出して伝えていることもあるだろうが、ゴール前にパスを出し、誰かが走りこんできてシュートを放つ。
そんな時に 「おーい○○!パスいくぞ〜!」 「おー!まかせとけ〜!」 などと言っていると相手にもバレバレになってしまう訳だから当然、無言でプレーしている。中には誰かが ”ススッ”とゴール前に移動したのを確認してそこにパスすることもあるが、敵も見方もいない場所にボールを送ると、どこからか味方が現れてシュートしたりしている。
アイコンタクト、つまりは目と目で語っているのだろうか?などと想像してしまうが、サッカーに詳しい人に聞くと ”練習のタマモノ” という無難な回答が帰ってきた。お互いに 「あいつは、あの場所にボールを出してくるに違いない」「あそこにボールを出せば、あいつならシュートするに違いない」という、まさに ”あうん”の呼吸である。それを可能にするのはやはり練習しかないのであろう。
そのほかにも突然反対方向にパスしてみたり、かかとで後ろの人にパスしてみたり、ボールを受けるふりをして急にやめ、その先にいる人に渡してみたりとなかなか多彩な ”技” を見せてくれる。それも ”あうん” の呼吸と相当な集中力がなければ不可能なように思う。それもこれも日々たゆまぬ努力と練習のおかげなのであろう。
世界トップレベルの ”技”を目の当たりにしてサッカーの面白さが少しだけ分かってきたような気がするが、のめり込む程のサッカーファンにはまだなっていない。人それぞれの楽しみ方でサッカーに興味を持ち、W杯が終わったあとも Jリーグの試合に足を運んで観客数が増えると良いのだが、そこは日本人、多くの人は W杯が終了するか、日本が負けたとたんに一気に熱が冷めてしまうものと思われる。
それでも少しの人でもサッカーファンとして残って Jリーグを盛り上げなければ、今のような観客数では組織運営が厳しいのではないだろうか。発足当初は日本経済がバブル期であったこともあり、Jリーグのロゴ使用や TVの放映権に巨額なお金が動いたりしていた。しかし、すぐに視聴率の低迷から TVでの試合中継が激減し、ファン層の拡大に陰りが出てきた。
TV中継がなくなり、競技場にも人が集まらないとなると当然スポンサーも離れていく。お金が動かなければチーム運営も厳しくなり、選手に支払う年俸にも影響が出てくる。報酬が得られないのであればサッカー選手を目指す人が減り、競技人口も増えない。競技人口が少なければ世界に通用する選手も発掘が困難になる。まさに悪循環である。
純粋なサッカーファンではないので偉そうには言えないが、便乗して騒ぐだけでなく競技そのものを楽しんで競技を理解すべきだと思う。その気がないのであれば自分のように家で大人しくしていればよろしい。決勝トーナメントに進むことができた段階でこの騒ぎである。18日のトルコ戦で日本が勝てば次の試合でまた大阪に帰ってくる。相手がスウェーデンかセネガルなので勝ったら勝ったで大騒ぎになるのだろう。
そしてどちらの国が相手であっても相当に強いと聞いているので負ける確率が高い。そうなった時、日本の群集はどういう行動にでるのだろう。ガックリと肩を落として悲しむのだろうか。それともどこかの国のサポーターみたく、くやしさを紛らわすために暴れるのだろうか。勝っても負けても人に迷惑をかけるような騒ぎを起すのだけはやめていただきたいものである。
もし何かが起きても警察官は数人がかりの ”あうん” の呼吸で暴れている奴を取り押さえてくれるに違いないと信じている。