シェーバー

先週の金曜日のことになるが、シェーバーを新調した。

木曜日の夜にヒゲを剃っていると肌にジャリジャリした感覚と多少の痛みがあるような気がしていたが、無視してジョリジョリしていたところ左頬に激痛が走ったので慌てて鏡を覗き込むと、浅くはあるが縦一直線に傷ができて少しだけ血がにじんでいる。

手にしているシェーバーを良く見てみるとネットの一部が欠落して小さな穴が開いている上に内部の刃の根元もグラグラしている。

動作が怪しいと少し前から思っており部品交換する必要を感じてはいたりしたのだが、以前の雑感に書いたようにヒゲは濃くないどころか情けない状態であるため、シェーバーなんぞどうだって良いとの思いから (そのうちに) などと余裕の構えでいたのが失敗だったのかもしれない。

危険をかえりみず顔面に傷を負ってまで我慢して使い続けることもなかろうと思い、部品を購入しようと家電量販店に行ったのだが、それがビックリするほど高額であり、ネットと替刃を合計すると軽く 4000円を超えてしまうことが判明した。

そんなに高いのであれば新しくシェーバーを買っても一緒なのではないかと売り場を物色すると、下は 2000円くらいから中には数万円もするような高価なものまでピンキリの品揃えなのが心を迷わせ、ろくにヒゲも生えないくせに自動洗浄・充電機能付きの商品を手に取ったりしてみた。

しかし、どう考えても自分には不釣合いで宝の持ち腐れ状態になってしまうことは自明の理であり、何だったら最低ランクである 2000円程度のもので十分なのではないかと予想される。

高価なシェーバーを陳列棚に戻そうと手を伸ばしているときに店員さんと目が合ってしまい、ひょっとしたら面倒なことになるのではないかという野生の勘がこんな時だけ見事に的中してしまったようで、店員さんはにこやかな表情を保ちつつこちらに向かってくる。

慌ててシェーバーを元の位置に戻してツツツーっと低額商品が並んでいる棚にカニ歩きで移動し、2980円とかの商品を手にとって 「う~む」 と難しい顔なんか作ってみたりしながら横目で店員さんを確認すると棚に戻した超高額シェーバーを手に近づいて来た。

「こちらの商品は切れ味も良く、深剃りもできますのでとても評判が良いんですよ」 との説明に対して 「いえ、ヒゲが薄いから深剃りなんかできなくていいんです」 と応えたが、“敵” はひるむことなく 「使い終わったらこちらにセットするだけでアルコール洗浄しますからとても清潔で…」 と続けてくるので 「そんな機能は必要ないんで」 とぶった切ってやる。

残念そうに商品を棚に戻す店員さんを尻目に棚を見ていると、少しテンションは下がったものの高い方へ高い方へと誘導しようと試みる積極的な攻勢をかけてきたので、「本当にヒゲが生えないんで剃れるだけで十分なんですよ」 と伝えると 「でも少しおヒゲが伸びてきてますよ」 と言うので 「これは二日前に剃ったきりなんです」 と応えたら 「えっ」 と言ったまま絶句してしまった。

結局、最低ランクではないものの部品交換するための金額に少し色をつけた程度の価格で新しいシェーバーを購入し、すっかり意気消沈している店員さんに別れを告げて帰宅したのであった。