最近の歌はメロディー重視で歌詞がなおざりにされている感が否めない。
よく読み込めば深い意味があるのかも知れないが、横文字を多用し、あちらこちらに散乱している文章は英単語の意味を知る必要があるし、英文を理解しなければならないので骨が折れる。
おまけに、そこまでしなければ理解できない文章など歌詞の意味を持たないのではないだろうか。
メロディーに乗せて耳から心にストンと落ちてくるのが良質な歌詞であり、良質な歌だと思うのだが。
だからと言って、詩である以上はそれなりの表現が必要だ。
最近の若い子が作る歌詞は好きだの愛してるだの悲しいだの寂しいだのとダイレクトに伝えるものが大半で、それを詩的に表現している文章にお目にかかったことがない。
同世代の心には届き、染み渡るのかも知れないが、若僧の書く日記に毛の生えたみたいな文章は年寄りの心には響かないし共感も感動もできない。
しかし、一青窈の『ハナミズキ』のように難解な詩だと、やはりその思いも伝わってこないが。
この『ハナミズキ』は 9.11 アメリカ同時多発テロ事件をきっかけに生まれたらしい。
テロに対する怒りの連鎖がとまるようにと祈りをこめて作り、自分や家族、自分の好きな人の幸せだけを願うのではなく、「君」と「君の好きな人」が100年続きますようにとメッセージしたと言う。
それをどこぞのバンドやコブクロのように直接的な文字にするのではなく、詩的に表現したのだろうが、難解すぎても何も伝えられないという大きな欠点を持つものだ。
それほど大きなメッセージ性はなくても思いが込められた詩というのは存在する。
デビュー当時、その出で立ちとタイトルからコミックバンドのコミックソングに近い評価しかなかったサザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』だが、よく読めば実に物悲しい。
冒頭の一文、
砂まじりの茅ヶ崎 人も波も消えて
これだけで夏の終わりを表現しているし、あの季節特有の寂しさが伝わってくる。
著作権があるので多くは引用できないが、全体的に夏の終わり、恋の終わりが表現されており、もっとも有名な歌詞へと繋がっていく
今 何時? そうねだいたいね
彼氏、または彼女が時間を気にするのが寂しいのだろう、それゆえにグズグズと答えない
今 何時? ちょっと待ってて
それゆえにグズグズと答えを引き延ばす
今 何時? まだ早い
まだそんなに遅い時間ではない、まだ帰りたくないと言いたいのか。
RCサクセションの代表曲『トランジスタ・ラジオ』も独特の世界観から楽しい歌だと思っている人が多いだろうが、詩を読み込めば失恋ソングだと気づく。
ポカポカ陽気の中、授業をサボって屋上で寝転びながらタバコをふかし、音楽なんかを聴いたりしている自分。
授業中 あくびしてたら 口がでっかく なっちまった
居眠りばかり してたら もう目が少さく なっちまった
そんなだらしなく、口が大きくて目も小さい容姿がさえない自分だから、真面目に授業を受けている彼女とは釣り合いが取れないと。
Ah 君の知らない メロディー 聞いたことのない ヒット曲
ヒット曲というからには何度も流れてくる曲なのだろうが、彼女が聞いたこともないということは一度も一緒にラジオを聞いていないのだろうから、失恋ソングというというより片想いソングなのかもしれない。
他にもRCサクセションの忌野清志郎が書く詩には悲しいものが多く、『雨あがりの夜空に』は車に置き換えているだけで彼女と別れたか喧嘩した夜の情景だろう。
『スローバラード』はとても短い詩だが泣けてくる。
あの娘のねごとを聞いたよ ほんとさ 確かに聞いたんだ
別の人の名前だったのか、きっと聞きたくなかった言葉が彼女の口からもれたのだろう。
ぼくら夢を見たのさ とってもよく似た夢を
今までの時間は二人で見た夢に過ぎず、朝になれば終わりを迎えてしまうに違いない。
好みは人それぞれ、直接的な表現が好きな人もいるだろうが、冒頭でも触れたように詩である以上は、言語の表面的な意味だけではなく美学的・喚起的な性質を用いて表現される文学の一形式(Wikipedia)でなければいけないと思うのが、どうだろう。