夏が来れば

夏が来れば思い出す、はるかな大阪、遠い空。

北海道にもやっと夏が来て、昨夜は今季初めて発泡酒を飲むことができた。

夏が来たと言っても最高気温は24.6℃だったので正確には夏日にとどいてはいなかったが、今日は27.4℃まで上がったので間違いなく夏本番だ。

5年もすれば体が慣れると言われていたが、北海道に帰ってきて8度目の夏となっても大阪の記憶と肌感覚が残っているので我慢できないような暑さを経験したことがない。

生粋の道産子は、すでに夏バテしているだの食事がノドを通らないだの寝苦しいだの言い始めているようだが、我家の場合は食事も美味しく頂いているし夜も眠れている。

大阪で必須だったエアコンは設置すらしていないし、扇風機も1シーズンに10日ほどしか使わず、就寝の際に使うことなど3日あるかないかだ。

同じく大阪で必需品だったアイスノンも使うのは1シーズンに10日ほどだろう。

暑くて眠れないなどということはないし、食欲がなくなることもない。

大阪で暮らしていた頃、夏が近づくにつれ憂鬱になったものだ。

ゴールデンウィークを過ぎると来る夏を思って気分が暗くなり、6月の梅雨の時期には恐怖すら覚え、いよいよ夏本番の今時期になると、9月の彼岸が待ち遠しくて仕方がなかった。

大阪に引っ越した1994年10月は、まだ暑さに慣れていないからか10月が終わるまでエアコンのお世話になっていた。

今から思えばその年は異常気象だったのかもしれないが、とにかく暑くて暑くて、とても人間が住むところではないなどと思ったりしていたものである。

それでも、その年は10月の暑さを経験しただけだったのでマシだったが、翌年からは夏の最初から最後まで経験することになり、見事なくらい典型的な夏バテになってしまった。

食欲もなく食べ物がノドを通らないどころか味噌汁でさえ飲むのがつらい。

来る日も来る日も麺類を流し込んでいたが、さすがに栄養面でいかがなものかということになり、『お買い物日記』 担当者と検討を重ねた結果、なぜか味噌汁ではなく赤だしなら飲めることが判明し、ごはんとおかずを赤だしで流し込むことで何とか夏を乗り切った。

ただでさえ寝付きが悪いのに夜も暑くて暑くて眠れない。

敷布団の下に『すのこ』を敷いて空気の流れを良くし、シーツの上に『ござ』を敷いて清涼感をプラスしてみたりしていたが、そんなものは焼け石に水状態であり、ものの1分もすれば自分の体温で布団が温まり、ダラダラと汗が流れ出る。

寝返りをすると『ござ』の効果で冷たく感じる部分があるが、1分もすれば暑くなるのでまた寝返りして反対を向くということを繰り返す。

『お買い物日記』 担当者は自分より寝付きが良いので隣で寝息を立てはじめるが、一時間もしないうちに暑さで目覚めて布団を這い出して行くので、自分も起きて行き、当時は愛煙家だった二人は揃ってタバコの煙をくゆらせながら目を半開きにしてボーっとしていたものだ。

それから比較すると北海道の暑さなど可愛いものである。

道産子が暑いと騒いでいても、30℃を超える真夏日は1シーズンに3日ほど、最低25℃の熱帯夜も1日か2日、もちろん35℃以上の猛暑日など未知の領域で北海道に帰ってきてから経験したことがない。

やっと25℃の夏日になった今も、最低気温は15℃前後なので朝晩は窓を開けていると寒くなってしまう。

こんな環境で丸7年、8度目の夏を迎えているのだから二度と大阪の暑さを経験したくはない。

無風で西日が射せば、部屋の中が30℃を超える日もないことはないが、そんな時も
「大阪より全然マシ」
「大阪と比べりゃ天国」
などと呪文のように唱えれば楽勝で乗り切ることができる。

夏が来れば思い出す。

あの暑さとの闘いの日々を・・・。