一か八か

景気の回復から価格も上向き、消費増税前の駆け込み需要もあってマンション、戸建ての着工、販売が好調だと聞くが、それらは都市圏に限った話しであって経済効果が北海道の田舎にまで及ぶのはまだまだ先のことだと思われるし、効果が波及する前に景気がしぼむなどというのは良くある話しだ。

東京では高級マンション販売も好調で 3億とか 5億の物件も即日完売という賑わいを見せているらしいが、2020年東京オリンピックに向けた投資目的ではなく、本当に居住することを目的としているならば、まだ工事が始まったばかりで現物を見ることも出来ないマンションに億単位の金を払うなどたいした度胸の持ち主だと思わざるを得ない。

実際にそこに住んでみて、隣だの上下階がとんでもない住人だったらどうするつもりなのか、何の関係もないこちらがドキドキしてしまう。

以前と違って今は近所づきあいもないだろうし、隣にどんな人が住んでいるか知らない場合も多いだろうが、だからこその問題も多いだろう。

今は一軒家に住んでいるが、若い頃から大阪で暮らしていた頃までずっとアパートやマンション暮らしだったので上下左右の住人や近隣住人のことが気になって仕方がない。

最初に暮らしたボロアパートでは、どちらかと言えばこちらが加害者で、朝夕、夜中を問わず友達が出入りし、しまいには外壁を登って窓から入ってくるものまでいたので隣近所には多大なご迷惑をお掛けしたものと思われる。

本当にボロなアパートだったので階下は三部屋続きで空いていたのだが、そこに友人同士というガラの悪い三人が引っ越してきて各部屋で暮らし始め、近隣住人とのトラブルが絶えなかった。

次に引っ越したアパートでは最初は平穏無事に暮らしていたのだが、上の階が空き部屋となったのを機に、その隣で暮らしていた一家が空いた部屋も借りて中学生と小学生が二人という三人兄弟の部屋に割り当てたものだからたまらない。

親の監視が行き届かず三兄弟は暴れ放題、男三人が飛び跳ねたり転がったりするものだから天井が抜けるのではないかと思うほどの大騒音が響き渡る。

何度か親に言ったが、静になるのは当日くらいなもので徐々に動きが激しくなり、三日もすればドッカンドッカッンと壁を揺らす大騒ぎとなり、これは親に言ってもダメだと部屋に怒鳴りこむと、小学生の弟二人は泣き出し、中学生はふて腐れるありさまで、しまいには親が子どもを怖がらせたと文句を言ってくる始末だった。

次に住んだ部屋の上階が大学生で、夜中だろうと朝だろうと構わずドカドカと騒音をたて、文句を言いに行ってもヘラヘラと笑うだけで一向に改善することはなく、ホトホト困り果てたので部屋に殴りこみに行ったほどだ。

次に住んだのは、いわゆる高層マンションだったが、それは自分で購入したものではなく部屋のオーナーが貸し出していたものだった。

そこは名のある不動産会社のマンションで、地下鉄駅から徒歩 3分という恵まれた立地であり、正確なところは忘れてしまったが 20数階建ての 14階に住んでいたのだが、ここは以前の雑感に書いたように上階の住人が恐ろしい。

夜中に女性の悲鳴が聞こえたので何事かと耳を澄ませば、上の階から
「だれか助けてぇ!殺されるぅー!」
という叫び声が聞こえるではないか。

警察に通報すべきかとも思ったが、そこの夫婦喧嘩はいつも激しいので放っておけば収まるだろうと無視していたところ、あまりにも静か過ぎるほど物音ひとつしなくなった。

そこには子どももいたのでソファから飛び降りるドッカーンという音もたまにしていたのに、その悲鳴が聞こえた夜から数日間はまったく音がなく、人の気配すらしなくなってしまったのである。

もしかしてもしかすると、奥さんと子どもは本当に殺されてしまい、夫が逃走したのではないかという不安が胸をよぎったりして落ち着かない日々を過ごしていたが、数日後に再びドッカーンという騒音が聞こえたので変な意味で安心したりしたものだ。

大阪で暮らした 14年弱、一度も引っ越すことなくずっと同じ場所に住んでいた。

まるでマンションの主であるかのように長く暮らしていたのは、その建物の大家さんがとても良い人だったのに加え、何度か入れ替わった他の住人も良い人が多かったことが最大の理由だ。

ただし、近隣住人の一部はあまり好感の持てない人だった。

目の前の道路を挟んで向かい側に止められていた車はエンジン音がうるさく、おまけに女の人の声で 「右に曲がります」 とか 「バックします」 と繰り返し音声が流れる装置を付けており、車の持ち主の爺さんの運転が下手なのか、決まって朝の 5時半ごろに延々と 「バックします」 を繰り返し聞かされる。

眠りが浅くて小さな物音でも目が覚めてしまう自分は、毎朝毎朝ずっと 「バックします」 を聞かされ、「さっさとバックして出発してくれぇ~。」 と心の中で叫ぶ日々が続いた。

反対側の家に住む一家は実に変わっており、奥さんは人嫌いで顔を合わせてもろくに挨拶もせず、旦那さんは酒癖が良くなかった。

夜中に怒鳴り声で目を覚ましたことも一度や二度ではなく、旦那さんが酒によって家族に大声で文句を言っているのが常で、一度など
「たのむ~、たのむから出て行ってくれぇー!」
と叫んでいたが、最後は離婚が成立したらしく、一家離散となって一軒家は売りに出されたので住んでいた当時から家庭は崩壊していたのかもしれない。

そんなこんなで時代は変わって近隣住人との付き合いなどなくなった今でも、誰かが住んで生活を始めれば、互いに少なからず影響しあうものである。

付き合いがなくて直接は言えないことも多く、ストレスが溜まっていきなり暴力沙汰や裁判沙汰に発展してしまう可能性も否定できない。

そんなリスクが存在するにも関わらず、億単位の物件を購入するのは一か八かの賭けのようなものではないだろうか。

とてつもない金持ちであれば転売して他を探せば良いだろうが、ローンまで組んで終の棲家と決めて購入した場合は最悪だ。

それが億単位ではなくても、マンションや戸建住宅の購入には千万単位の金が必要となり、老後の計画までして購入したマンションの上下階、左右の部屋から騒音が響き渡ったり、人間関係が最悪な環境に身を置かなければならなくなってしまったとしたら・・・。

小心者の自分は恐くて、とてもじゃないけど不動産など購入できそうにない。

残りの人生を一か八かの賭けで決めることなど不可能だ。

消費税が上がるからといって、こぞって不動産購入に走る人をある意味で尊敬し、畏敬の念を抱きつつ遠くから傍観したりしている今日このごろである。