スーパー女子高生 mayu

以前にも書いたとなりの店は、ご両親と兄妹、そして妹ちゃんには娘がいるので 5人家族だ。

妹ちゃんは関東で暮らして結婚し、出産のために北海道に帰ってきている間に旦那さんが別の女性と深い仲になってしまい、帰って来なくて良いなどと訳の分からない理不尽なことを告げられ離婚したという過去を持つ。

美容の技術を身に着けたのは、それより以前なのかそれ以降なのか分からないが、親の跡を継いで繁盛店にしているのだから、甲斐性なしの男と不毛な生活を続けているより結果的には良かったのではないだろうか。

そんな事情で父親がなく、一般的な家庭とは異なる休日体系で土日も祭日も大型連休もなく、朝から晩まで忙しく店を切り盛りしているので母親と接する時間も短いという環境で育てば、多少は反抗的になったり非行に走ったりしてもおかしくはないが、妹ちゃんの娘は実に素直で可愛らしく立派に育っている。

この4月で高校三年生になった彼女の名はマユちゃん。

顔を合わせればニコニコ笑顔で挨拶してくれる。

自分が中学、高校くらいの頃、周りの大人はすべて敵だと思っていたので挨拶もしなければ、ろくに目も合わさなかったし笑顔を見せることなど皆無だった。

たまにおすそ分けなど持ってきてくれ、
「戴き物なんですけど良かったらどうぞ」
などと、きちんと会話して帰っていく。

自分は近所の人と関わりたくなかったし、上述したように口もききたくなく、そもそも親の言うことなど聞くはずもないので、おすそ分けなど持って行くことなど有り得なかった。

以前、帰省のためしばらく家を空けることを 『お買い物日記』 担当者が伝えに行くと、大人たちは店が忙しかったのか対応してくれたのがマユちゃんだったのだが、なんと話しの最後に
「気をつけて行って来てください」
と言ってくれたと感動しながら帰ってきた。

これが同じ頃の自分であれば、
「はい」
とか
「はあ」
せいぜい
「わかりました」
くらいの単語しか発しなかっただろう。

客商売をしている家庭に生まれた子なので先天的に社交性や話術に優れているのかもしれないが、少なくとも自分以外に当時の友達関係まで対象を広げてみても、たとえ真面目人間だったマサルであっても、それほど気の利いたセリフは言えなかったと思われる。

去年の今頃には
「イチゴ狩りに行って来たので食べてください」
と、山盛りのイチゴを持ってきてくれた。

繰り返しになるが、自分はおすそ分けなど近所に持っていかなかったし、親とイチゴ狩りなんぞ真っ平御免であり、行動を共にするなど考えられず、たまの外食ですら誘いを断ってお金だけ受け取って一人で買い食いしていたものだ。

そして今年の二月、なんとマユちゃんはバレンタインチョコまで持ってきてくれた。

義理チョコ、友チョコ、自分チョコなど手作りしたと言うことなので、それを手伝っていた妹ちゃんにでも
「隣のオジサンにも持って行ったら?」
などと言われたのだろうと思っていたのだが、実は一人で黙々とチョコを作り、自己判断で我が家の分まで作ってくれ、自主的に持ってきてくれたということが後に判明した。

そんな女子高生が世の中にいるだろうか。

なんと立派で思いやりがあり、心優しい女の子なのであろう。

小さい頃から書道をたしなみ、今では人に教えられるほどの腕前であり、同じく幼少の頃から英会話を習い、日常会話に支障がないほどの英語力が身に付いている。

だからと言って見るからに大人しそうなお嬢様タイプではない。

キラキラした笑顔の持ち主ではあるものの、流行のファッションに身を包み、髪を少し茶色く染めて学校の先生に叱られるという、今どきの女子高生だ。

ジャニーズの嵐のファンであり、コンサートチケットを手に入れるためにファンクラブに入会し、それでも入手困難なものだから母親である妹ちゃん、挙句の果てには孫の魅力を存分に発揮してお爺ちゃんまで入会させるという荒業を使う。

「もうみんなが持っているから」
という実に子供っぽいごまかしで、普及率が30%にも満たないスマホをまんまと買ってもらったりもしている。

そんな面がありながらも自分というものをしっかりと持っており、ユネスコ交流事業で公募された作文審査で合格した全国 12人のうちの 1人に選ばれ、ドイツに行って英語でスピーチすることになった。

とにかく同じ年頃だった自分なんぞ比較するのも恥ずかしく、それに値しないほど良くできたスーパー女子高生なのである。

しかし、本当に残念なことであるが、マユちゃんはドイツに行くことが叶わなかった。

なんと不運にも流行していたインフルエンザに感染してしまったのである。

スーパー女子高生のマユちゃんも、病気に勝てなかったのであった。