オジサンの若かりし頃、子供の頃は
「男児たるもの人前で涙など見せるものではない」
という戦後色濃厚な香りを引きずりつつ親や教師から言い聞かされたものである。
泣くことが許されるのは親きょうだいが亡くなったときくらいなもので、それ以外の場面で涙など見せようものなら同級生からすら笑い者にされてしまうような時代だった。
しかし、最近の男の子は事あるごとにすぐ泣くらしい。
感動的な映画など観て涙する程度であれば、なかなか感受性が豊かでよろしいと思わなくもないが、泣く理由はオジサンからすると到底許容しがたい内容だ。
男と女の間には別れがつきものであるが、昔のドラマや映画、実社会においても別れ際に泣くのは決まって女性であり、それが絵になるからこそ多くの名シーンが誕生したのであって、テレビでも映画でも小説でも時には悲しく、時には美しく、時には狂おしく描かれてきた。
ところが最近では別れ話を持ち出されて泣き出す男が多いのだそうだ。
相手が去っていく後ろ姿を横目にヨヨと泣く、時には追いすがり、すがりつき、足げにされて倒れこみ、涙でにじんで見える彼女の姿を目で追い続ける男・・・。
貫一お宮の立場が入れ替わったようなシーンを見せられては感動も何もあったものではないと思うのだが、今後はそういう物語が主流となって芝居や映画などで人々を感動の渦に巻き込んだりするのだろうか。
別れはそれなりに悲しいことであるので百歩譲って男が泣くことを許したとしよう。
しかし、聞いた話では彼女と喧嘩して泣く男もいるらしい。
もちろん、自分が悪いのであれば謝罪し、許しを乞うことは男女に関係なく必要なことだとは思うが、何も泣くことはあるまい。
たかが男と女の、他人から見れば小さな諍いで始まった喧嘩において、涙ながらに謝罪するほど深刻なことがどこにあろうか。
これは最近読んだ本に書いてあったことの受け売りだが、最近の男の子は会社の上司に叱られた程度でも泣くらしい。
理不尽なことを言われて陰で悔し涙を流すというのなら分からないでもないが、叱られている最中に上司の目の前、周りに社員がいる中でシクシク泣くのだそうだ。
男女雇用機会均等法が徹底され、男女格差がなくなりつつある今、こんなことを言うと叱られそうだが、昔は上司に叱られて泣くのは女性であり、涙を見せられた上司は少したじろいで
「涙は女の武器だ」
とか言ったものであるし、周りの男性社員は
「いいよなぁ~女は。泣けば許してもらえるんだから」
などと嫌味を言ったりしていたものであるが、そんなことも今は昔。
叱っている最中に泣き出す男性社員を相手にした上司は、さぞかし度肝を抜かれることだろうが、それが現実であり、それが今の時代なのだろう。
最近になって少し涙腺がユルユルになりはじめ、映画を観て感動したり、探査機 『はやぶさ』くんの帰還に胸が熱くなって泣きそうになったりもするが、やはり涙を流すのはためらわれる。
人目もはばからず泣く男などと一緒に仕事もしたくないし、部下に持ちたくもないし、そもそもそんなバカは相手にもしたくない。
そんな時代、会社勤めをせずに一人で仕事をしていて本当に良かったと、オジサンは少し安堵したりしているところである。