先祖返り

SPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel)とは、ユニクロにみられるような日本語では 『製造小売業』 と呼ばれるビジネスモデルであり、元々はアメリカの衣料品小売大手 GAPが開発した手法であるため、ファッション、アパレル業界に向けた用語だったが、企画から製造、販売までを垂直統合させることによってムダを省き、消費者のニーズに迅速に対応できるということから、多くの業態にその手法が取り入れられ、今では家具のニトリ、靴のABCマートなど多岐に渡っている。

大手スーパーが自主企画商品として発売しているPB(プライベートブランド)商品だって大きく広い目で見ると企画、製造、販売までしているのだから SPAの一種なのではないかと思われる。

庶民にとって品質の良いものを安く提供して頂けるのであればどんな手法のビジネスであれ、これほど嬉しいことはないし、事実として今のところは消費者も支持して商品が選ばれ、企業も利益を得られているのだから双方にとってプラスの結果をもたらしていると言えよう。

しかし、それはそれとして不思議に思うこともある。

企画、製造、販売をすべて手がけるというのはニュービジネスでも最先端のビジネスモデルでもなく、消費者に喜ばれるものを作りたいと思い、原材料の仕入れから製造、そして販売までを手がける昔ながらの豆腐屋さん、わらび餅屋さんなどと何ら変りなく、商売の先祖返りに他ならないのではないだろうか。

もっと原点に立ち返れば漁師さんが捕ってきた魚を自分で売る、農家の人が育てて採った野菜を自分で売るというのも同じことのように思う。

昔はそういうビジネス、商売ばかりだったのが効率を求めて分業化し、作る人、仕入れる人、それを運ぶ人、運ばれたものを売る人など、それぞれがビジネスとして独立していったはずだ。

そして、その小売がバラバラに存在するよりまとまっていた方が買う側にとって効率的であることから、百貨店やスーパーという形態が生まれ、様々な売り場を誘致したことから巨大化していったのだろう。

それが今、再び分裂した訳だが、それぞれの小売がひとつの商業施設に誘致され、例えばユニクロ、ニトリ、ABCマートが軒を連ねるようになり、ヤマダ電機とかビックカメラなどの家電量販店も、ドラッグストアもホームセンターまでもまとまったら再び巨大な百貨店とかスーパーとかが誕生することになるのだろうか。

食事にしてもそうだが、ラーメン店、寿司屋、洋食屋などバラバラに存在するより家族で行って、何でも好きなものを注文できたほうが便利だということでファミリーレストランが誕生したのだろうが、今は絶滅危惧種に向かってまっしぐらなのではないかと不安視されるほど業績が低迷しており、むしろ中華なら中華、牛丼なら牛丼、カレーならカレーの専門店に消費者が流れている。

この業態を SPAとは呼ばないが、客に好まれるであろう料理を考案し、それを作って販売する流れは製造小売業と同質のものであるような気がする。

この飲食店業界も数年先になると、やっぱり一箇所で様々なのものを食べられたほうが便利だということになり、再びファミリーレストランのような業態が脚光をあびたりするのだろうか。

離散集合を繰り返して組織やビジネスというのは大きくなっていくものであるが、はたしてこれから先、どんなビジネスが生まれてくるのだろう。