ご迷惑とご心配

名だたる大企業であるトヨタの経営者が大規模リコールで。

名だたる大企業である日本航空の経営者が事実上の経営破綻で。

大政治家である小沢氏が秘書の逮捕で。

大政治家である鳩山氏が故人献金疑惑で。

その他にも企業の不祥事、犯罪行為、食の安全を脅かすような問題。

そのすべての経営者、当事者が記者会見の場において判で捺したように
「みなさまに多大なご迷惑とご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」
などとぬかす。

まともな謝罪のしかたも知らないのであれば経営者や政治家などやってほしくないものである。

いくら前段に 『多大な』 を付けようと、『迷惑』 などという軽いものではないだろう。

迷惑とは相手に戸惑いを与えたり不快にさせる程度の意味であり、庭の水まきをしていて、そのしぶきが通行人にかかってしまったくらいの、水が乾けば何の支障もないくらい軽微な意味でしかなく、他人の生命に関わったり人生に関わったりするほど重大な過失を謝罪する場で使うに値しない言葉である。

また、それに続く 『ご心配』 とは何ぞや。

このセリフを聞かされる度に
「テメーのことなんか心配するかボケっ」
「従業員以外はお前の会社のことなんて心配してねーよ」
などと心の中で毒づいている。

そもそも、この
「ご迷惑とご心配・・・」
という謝罪は芸能人から始まったと記憶している。

人を死に至らしめる場に居た押尾氏とか覚せい剤に手を出した酒井氏も使っていたが、それが始まりでなく、誰が最初かは忘れてしまったが、もっと軽い場での謝罪だったはずだ。

本人が怪我をして仕事を休んでしまった後の復帰会見だったか、あるいは病気だったと思うのだが、その場で使われたセリフとしては的を得ている。

仕事を休んだことでスタッフや共演者、所属事務所などに 『ご迷惑をおかけし』、応援してくれるファンの皆様に 『ご心配をおかけしました』 ことを深く 『お詫び申し上げます』 という種のものだ。

これなら何の違和感を覚えることもなく
「ああそうだね、元気になって良かったね」
という気分にもなれると言うものだ。

ところが最近では冒頭に触れたように、どんな立場の人であろうと、どんなに重大な過失や案件であろうとみな同じセリフを使う。

直近の話題で、例えばトヨタの場合、『ご迷惑』 などという一言ではなく、一体何をやらかしてしまったのか明確にすべきであり、『ご心配をおかけ』 したのではなく、『不安をあたえ』 たり 『ご心痛をおかけ』 してしまったのだろう。

トヨタの記者会見、あいさつで同社の Webページに掲載されている最初の二行はユーザを軽視、小馬鹿にしたようなものだ。
http://www.toyota.co.jp/announcement/100205.html

本来であれば 『ご迷惑』 などという言葉は使わずに
「お客様の命に関わるほどの重大な欠陥を生み、さらには対応の遅れまでも引き起こし、迅速な処置をすることができず」
と、何に対して謝罪するのかを明確にし、『ご心配』 など誰もしていないのだから
「お客様に不安を与え、ご心痛をおかけしましたことを」
と、正確な日本語に改め、『お詫び』 などという軽いものではなく
「深く謝罪いたします」
と結ぶのが正しい謝り方なのではないかと思う。

どいつもこいつも顧客を軽くあしらっているのか、頭が悪いのか、そんな謝罪の仕方だと事態に対して真摯に取り組む気があるのか疑わしくすらなってくる。

経営者や政治家の周りには高学歴のものもいれば、賢者、老獪な人もいるのだろうから誰か一人くらい注意してやっても良さそうなものだと思うのだが。