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デジタル化の波 ~目次~

なんでもデジタル化され、世の中が便利になりつつも既存のビジネスが成り立たなくなっているケースも多い。

ヨーロッパではインターネットの台頭とフリーペーパーの存在によって大手新聞社の発行部数が激減し、経営が立ち行かなくなるケースが増えている。

フリーペーパーとは無料新聞のことで、地下鉄や電車の駅前など人が多く行き来する場所に置かれている。

そのフリーペーパーだって文字や写真がデジタル処理できるパソコンの普及で発行が容易になり、参入障壁が低くなったことによって数が増えたのだろう。

昔であれば新聞記者が現場に行って取材し、会社に帰ってから撮ってきた写真を現像にまわし、取材メモを見ながら原稿を書いて校正などチェックを繰り返した後に文字写植をして印刷所でゲラが出来上がり、それを最終チェックしてから印刷するという膨大な作業があった。

ところが今では現場でパソコンを使って記事の原稿を書き、撮影したデジタル写真の中から最も良いものを選んて添付して Eメール送信すれば会社のサーバに蓄積され、各所から集まった記事をパソコン上で貼り付けたりレイアウトを整えたりして誤字脱字などがないかプログラムでチェックして印刷所に送信し、そのデータをそのまま印刷すれば新聞の出来上がりである。

このデジタル化によって原稿の締め切り時間が圧倒的に遅くなり、夜中の 1時や 2時のできごとが、その朝の新聞に掲載されていたりするので新聞を発行する側も読む側も受けた恩恵はかなり大きい。

ただし、それほど巨大な組織じゃなくてもコンピュータさえあれば新聞の製作が容易になったのでベンチャー的刊行物も増える。

新規の新聞を一軒、一軒営業して発行部数を増やすのは容易なことではないので、それならばと無料でばら撒いてしまい、購読者を一気に増やして露出度を高め、それを武器に広告を獲得して収入源とするのがビジネスモデルである。

最初は大手の新聞社も高をくくって見ていたが、あれよあれよと言う間に市民に受け入れられて発行部数を伸ばし、新規参入が増えて内容を充実させる競争が激化した結果、記事の質も向上して有力紙とそん色ないレベルに到達するに至り、もはや市民は料金を払って新聞を購読する必要がなくなってしまった。

慌てふためいたのが有力各紙で、びっくりするような勢いで購読者数が減っていく。

そこで発行元各社が選んだ道は自社の新聞も無料化することだ。

有力紙のネームバリューがあれば数あるフリーペーパーの中でも手にとってもらえる確率が高く、多くの人が目にするようになれば離れていったスポンサー広告も戻ってくるに違いないという目論見だろう。

しかし、記事の質が高まって信頼を得るようになった新規のフリーペーパーも多いことから、目論見どおりに行くか神のみぞ知るというところだろう。

遥か昔、新聞というビジネスの勃興期に星の数ほど生まれた新聞が勢力を競い合い、淘汰されて生き残ったのが現在の新聞社だ。

今から始まるのは戦いの延長ではなく、新たなフィールドでの戦いだと思ったほうが賢明であり、いくら有力紙といえどもスタートラインは他紙と一緒である。

これから数年後にどこが生き残っているのか分からない。

そんな厳しい戦いの時代は、おそらく日本にもやってくるだろう。

今の新聞各社、戦いの準備はできているのか、心の準備はできているのか、少なくとも戦略くらいは練っているのか。

読売新聞のナベツネはいつまでも偉そうにふんぞり返っていられないことを自覚せよ。

その戦いはいつ始まるか分からない。

もうすでに、誰かが水面下で準備しているかもしれないのだから。