キセキ

奇跡的な軌跡を描き鬼籍に入らずに済んだ冷蔵庫。

韻を踏んだラップのようになってしまったが、我が家の冷蔵庫は迷走の果てに奇跡的な復活を遂げた。

一時は本気で買い替えを検討したが、当分はこのままいけそうである。

3月21日の独り言に書いたのが一連のトラブルの発端だ。

その時に発生した症状は、冷凍庫に謎の氷ができるというもので、自動製氷機の氷をためておく部屋の左側面につららができ、壁面にも厚さ 6-7ミリ程度の氷がびっしりと張り付くようになった。

その部屋の右隣にある小さな冷凍室は右側面の冷蔵庫本体との間に氷が厚くでき、引き出し式になっている部屋を開け閉めするたびにガサゴゾと氷が擦れる音がする。

最初は本体との隙間を塞ぐ磁石入りの樹脂パッキンがだめになったかと思ったが、左右同時に劣化が進むとは考えにくく、昔の冷蔵庫でよくみられた、いわゆる『霜』というやつが発生してしまったのかとも考えたが、それにしても下部にある残り一箇所の冷凍庫に異常はない。

原因は不明なままだが、このまま放置しておくわけにもいかないので、左右の冷凍室とも引き出し部を取り外して氷を除去することにした。

左側の製氷部は引き出し部に張り付いた氷なので除去は簡単だったが、右側の冷凍室は本体側に氷が張り付いているので面倒だ。

布巾に熱湯を染み込ませ、それを凍結部に当てて少しずつ氷を融かし、マイナスドライバーでガリガリと冷蔵庫本体にキズをつけないよう慎重に削る。

その作業を何度かしているうちに氷が一気に剥がれ落ちた。

引き出し部を戻してみると動きもスムーズになったので一件落着となったのだが、その日の夜にはまた左右の冷凍室とも氷が発生して開け閉めするとガサゴソ音を立てる。

もしかしたらと思い、自動製氷機能で氷を作るために必要な水を溜めておくタンクを調べると、樹脂製でできた本体との接地面が少し歪んでおり、冷蔵庫内に水が漏れていた。

念のために歪みを修正して設置し直してみたが、やはり製氷室につららができる。

これはもうダメなのだろうと。

もう少し、あと 2年、せめて10年間くらいは使いたかったが、買い換えるしかないのかと 『お買い物日記』 担当者と相談し、次はどんな冷蔵庫を購入するかの検討に入ることにした。

すると、翌日からできる量が減り始め、2-3日すると庫内の氷が消えてなくなってしまったのである。

3月25日の独り言にも書いたように、やはり『もうダメかと諦めると復活する』というのは我が家のあるあるのようだ。

・・・ところが、これでめでたしめでたしとはならなかったのである。

先週の日曜日、今度は冷蔵庫が異音を発するようになり、氷が減っても自動的に製氷してくれなくなってしまった。

前回のトラブルの際に無理に氷を削ったり、メリメリと剥がしたりしたため庫内の何処かに傷をつけてしまったのではないだろうかと不安になる。

何かのタイミングで異音が収まったりするので、とりあえずその日は様子を見ることにしたが、いつまで経っても氷は作ってくれない。

『お買い物日記』 担当者がネットで調べたところ、同じように製氷しなくなった冷蔵庫を自分で分解して直したという情報があったので、とりあえず翌日にチャレンジし、それでダメなら知り合いの電気屋さんに見てもらい、寿命だったら冷蔵庫を買い換えるという結論に達した。

そして翌日、ネットに掲載されている写真、説明文を見ながら分解作業に取り掛かる。

最初の手順、手前のネジ止めされているセンサーは、プラスドライバーでネジを回して簡単に外すことができた。

次の手順、製氷皿が格納されている部分の手前のカバーを外す作業。

カバーはネジ止めされておらず、はめ込まれているだけなので固定している左右のツメを押せば外れるとのことだったが、それがどう頑張っても外すことができない。

確かに左側にツメがあって軽く押せば外れそうになるのだが、右側が固定されたままなので無理に動かすとカバーを破損してしまう危険性がある。

そして、右側にはどう見てもツメらしきものがない。

すったもんだしたあげく、やっと見つけたのは底面にあるツメだった。

ネットにある情報が古すぎるのか、逆に新しすぎるのか、とにかく我が家の冷蔵庫の部品は写真や文章にあるものと形状が異なるため説明通りでは外れなかったのである。

やっとの思いで前面のカバーを外すことができ、次の手順ではいよいよ製氷機能の中心部である製氷皿と、それを制御するモーターが一体になったユニットを外す作業だ。

これまたネットの写真を見て説明文を真剣に読みながら作業するもユニットはびくともしない。

このユニットもネジ止めされているのではなく、はめ込み式になっているので左右の側面にあるツメを押せば取れるとあるが、そのツメらしきものが見当たらず、微妙に突起している部分がそうなのかと思って押せども引けどもガッチリと固定されたままだ。

写真に矢印がある訳でもなく、文章で『押す』とあっても、左右から中心に向かって押すのか、上に向かって押すのか、はたまた奥に向かって押すのかすら分からない。

うんともすんとも言わないユニットを見ながら呆然としている間も、ドアが開けっ放しになっているという警告のブザーはむなしく鳴り響く。

そうこうしているうちに庫内の温度が上がり、中途半端な角度で止まっていた製氷皿から氷がドサッと落ちてきた。

その他にもユニット内部で凍結していたと思われる氷が落ちてきたり、融けて水になってボタボタと庫内を濡らす。

もうこれ以上の作業は無理だと判断し、外したカバー、センサーを取り付けて引き出しを元に戻した。

ところが、冷蔵庫はしばらくしても耳障りな異音を発せず、何事もなかったように静かなモーター音を流し続ける。

そして、庫内の温度が下がった頃、ウイーンという動作音が聞こえ、製氷機が給水を始めた。

・・・。

それから数時間後、製氷室に「カラカラ、ゴトゴト」という音が鳴り、見事に氷ができたのである。

きっと分解作業中に上昇した温度でユニット内の不要部分の凍結が融けて正常動作するようになったのではないだろうか。

あれから一週間、冷蔵庫は何事もなく動き続け、順調に氷を作り続けてくれている。

完全に問題が解決したとは思えないが、また同様の症状になった時は、無理をせず製氷部分の引き出しを抜き、庫内の温度を上昇させて余分な氷を融かす作戦で対処しようと思う。

これからも、せめてあと 2年くらいは元気に働いてほしいと願いつつ、今日も冷蔵庫が作ってくれた氷で酒を呑んでいる。