資本主義の末路

『派遣切り』 と言われる非正規雇用者の契約解除が続いている。 ある評論家が息巻いていた。 必要なときに人材を確保し、経済が悪化したとたんに切り捨てて良いのであれば、会社経営なんぞ誰でもできると。 しかし、そういう経営を評価していたのが株式市場である。

まだ赤字に転落しておらず、内部保留も相当な額が積みあがっており、株主配当も続ける余裕さえある企業がどうして人員整理をするのかと、さも庶民の味方のふりをして語る司会者。 それじゃあ、おまえの儲かっている個人事務所で 100人ほど雇ったらどうだ? と言ってやりたくなる。

派遣切りを止めさせたいのであれば株主至上主義を是正すべきだ。 そうしたら、どこかのオッサンがしたり顔で言うだろう。 アメリカ型資本主義を持ち込んだ小泉政治の負の遺産だと。 しかし、そんなアホの言うことを聞く必要などない。 ある程度は資本の理論を持ち込まなければ日本企業は世界で戦えないのは事実だったのだから。

確かに古き良き時代はあった。 年功序列、終身雇用が原則で、余程のことがない限りは会社をクビになることもなく、年齢と共に所得が上がり、会社は擬似家族として存在する。 社内旅行や社内運動会があり、小さな部署単位、課の単位、個人単位で飲み会が開催されてコミュニケーションが図られる。

多くの株は持ち合いで流動性がなく、株価は一定水準で乱高下もせず、もの言わぬ安定株主ばかりなので経営の自由度が高くて多くの株主配当を出す必要もない。 その分だけ社員に分配する余裕があるし、数年間の赤字が続こうが固定費に占める人件費の割合が高かろうが誰からも文句を言われず、全社一丸となって不況が去るまで耐え忍ぶ。

それら全てのことに対して NO を突きつけたのは株主であり、社員そのものである。 会社への忠誠心などなく、「スキルアップのため」 などと綺麗ごとを言いつつも報酬の高い仕事へ転職を繰り返し、上司、同僚からの酒の誘いもうとましく思ってコミュニケーションを図ろうともせず、旅行、会社行事などの団体行動はダサいから参加しない。

アメリカ型の経営に傾注し、会社が実力主義を重んじた成果報酬型の給与体系を進んで導入した経緯はあるにせよ、それを是とした個人がおり、むしろそれを好んだ社員がいる。 その際にそんな個人や社員をいましめることもなく、むしろ人材の流動化という謳い文句で容認し、『年収数億円を稼ぐスーパー社員』 などと持ち上げた伝え方をしていたのはマスコミだ。

そして、日経平均株価が上がっただの下がっただのと一喜一憂し、大騒ぎするのもマスコミであり、外国人投資家が日本株を買い越しただの売り越しただのと気にするのもマスコミだ。 現在は人員削減を問題視しているが、今なんの対策もせず、日本の市場から投資家が離れ、トヨタやソニーの株が暴落して外資に買い叩かれたら日本に税金が落ちなくなるのが分かっているのか。

過去に何度か書いているように、会社は株主のものなんかであるはずがないと思っているので、株主至上主義が良いことだと思わないし、むしろ間違っていると考えている。 しかし、世界を相手にビジネスをするのであれば、資本主義は受け入れなければならず、日本に持ち込むことは必要だっただろう。 問題は、ただ持ち込んだだけで日本流に消化しきれていないことである。

なんでもかんでもアメリカが正しい訳ではないことが今の世界金融危機で証明されたのだから、日本式企業経営のあり方や日本流の資本主義を加味して新しい資本主義を構築するチャンスなのではないかと思うのだが。