カモの親子がいた風景

それは 7月 2日の朝のこと。

散歩の途中、公園内を流れる小川の淵をあるいていると、遠くにカモの泳ぐ姿があった。

その公園の中央にある池、散歩の第二コースにしている桜並木の横を流れる小川、水車のある散策路と平行する小川、そして家から徒歩 2分くらいのところにある小川と、あちらこちらにカモの姿があるので実はそれほど珍しいことではなく、単に
「ああ、カモがいるな」
くらいにしか思っていなかったのだが、何やら小さくてホワホワしたものが周りをチョロチョロしているような気がする。

数年前まで視力 2.0を誇った我が眼球も、老化の影響からか、はたまた若いころより酷使したツケがまわってきてしまったのか、最近になって悪化の一途をたどっており、今では乱視混じりの 0.5くらいになってしまっているため、何か動いているような気はするものの、それが何であるかハッキリ見てとることができない。

そこでメガネをかけたら自分よりも良く見える 『お買い物日記』 担当者に
「カモの周りに何かいるのは子ガモかな?」
と聞いてみると、しばし川面をじっと見つめ、
「本当だ!子ガモだ!」
と嬉しそうに指差している。

慌てて近づき驚かせてはいけないと、はやる気持ちを抑えて普段どおりの歩幅で先に進む。

いよいよ近づいて子ガモたちの姿がハッキリ見えるようになると、その可愛らしさに思わず頬が緩んでしまい、二人そろってニタ~っとしたまま立ち止まり、しばしその姿を眺めていた。

その姿は実に愛くるしく、絵やぬいぐるみでは表現できないであろう温かみと情緒にあふれ、ただ泳いでいる姿を見るだけで自然に笑顔が込み上げて来る。

それが 10羽も集まって親ガモの後ろに連なり、時には親を追い越してみたり、時には川べりの草をつついてみたりして集団から遅れてしまい、慌てて追いかけたりする姿が実に微笑ましい。

まだ朝食をとる前の散歩であり、仕事を始めなければいけないこともあって、後ろ髪を引かれるような思いはあったが、それを断ち切るようにして帰宅したものの、頭の中は子ガモのことで一杯になり、ときどき手を休めては朝の光景を思い出してニンマリしたりしていたが、とうとう我慢できず夕方になってから買い物ついでに公園へ

朝見たときは下流に向かって進んでいたので、公園の川の最下流から上流に向かって探してみたが、朝の場所まで行っても見当たらない。

いくら小さな川とはいえ、途中には落差 4-50センチの滝もあり、あの小さな子ガモが登っていけるはずがない。

どこに行ってしまったのだろうと思いつつも上流に向かって進むと、ずいぶん上のほうにカモの一家を発見した。

あの小さな体でよくもこんな所まで来れたものだと感心し、爺さんが孫にでも接するように子ガモたちを褒め称えてやりたくなったりしながら元気に動き回る姿をじーっと眺め、できれば何も考えずいつまでもそのまま見ていたかったのだが、夕方からのタイムサービス目当てで買い物に出たことを思い出し、またまた引かれる後ろ髪をバッサリと断ち切って公園を後にした。

翌日、カモの親子と再会できるかもしれないと、期待に胸を膨らませて散歩に出かけたが残念ながら姿を確認することはできなかった。

そして、その日の夕方、『お買い物日記』 担当者に誘われて再び公園へ。

例によって下流から見てみようと近づくと、ビデオカメラを持ったオッサンが大声で
「カモだ!ほら!カモの親子がいるよー!」
と子供を呼び寄せ、
「早く!ほらカモだ!」
と自分の母親らしき人も呼ぶのだが、彼女は足が悪そうで、杖をつきながらゆっくり歩いて近づこうとしているのに
「早く!早く!」
と手招きまでして実にうるさい。

野生のカモなのだから遠くからそっと見守ってやればいいのに川のすぐわきまで行くものだから、カモの親子は迷惑そうに上流にむかったり下流に向かったりと右往左往している。

ひとしきりギャーギャー騒いだ人間の一家はカモを見るのにも飽きたようで、その場を立ち去ったことでやっと平穏なときが訪れた。

カモたちも安心したようで、川から草むらに上がって親ガモは毛づくろいをし、子ガモたちはおのおのが勝手に、それでも親ガモからあまり遠く離れないところで元気に動き回っていたのだが、その動きがだんだん鈍くなり、一羽、また一羽と動かなくなっていく。

どうやら遊び疲れたのと暖かい初夏の日差しが気持ち良いのとで眠気を我慢できないらしい。

すべての子ガモが眠ったのを確認すると、親ガモまで丸くなって眠ってしまった。

動き回っているカモであれば何時間でも見ていられるが、さすがに眠って動かないカモを見ていても仕方ないので、起こさないようにそーっとその場を後にした。

しかし、残念ながらその姿を見たのはそれが最後になってしまった。

あれからずっと悪天候が続き、散歩に出かけられる日も少なかったが、公園を通るたびにカモの姿を探しているのに一度も会えていない。

「変な二人がじーっと見てて気持ち悪い」
と、引っ越したのでなければ良いが・・・。

野生の生き物の成長は早い。

もう子ガモは成鳥と見分けがつかないくらいになっているだろうが、決して変な二人じゃないので来年もこの地に来て、孫ガモを見せてほしいとできれば会ってお願いしておきたいと思っている。