ショウコノコト 7

独り言にも書いたように我が母ショウコと同じ町に暮らし始めて一カ月が経過した。

最初は右も左も分からないだろうし、施設で生活するにも色々と物入りで買い揃える必要があったし、住民票、銀行口座その他諸々の事務手続き等もあったので毎日のように会っていたが、最近は少しずつ間隔を空けるようにしている。

ショウコも施設で話し友達ができたようだし、部屋に電話回線を引いてやったので故郷の友達や親戚などからの電話もあるようで毎日が忙しそうだ。

叔母のレイコに対して女王様のように振る舞って迷惑をかけ、気に入らない人とは一切の付き合いをしないという我が強いショウコが、施設というある意味で団体生活に近い環境に馴染めるのか若干の心配があったが、そこはそれ、40年以上も営業職を勤めただけあって割とそつなく人付き合いして環境に順応している。

朝食後は部屋に戻らずみんなが集まるエントランスで談笑し、9:30になればラジオ体操をしてまた談笑、昼食後は 3階の部屋に戻るようだが退屈になれば 1階のエントランスに行って誰かとペチャクチャ話をしているらしい。

それでもまだ職員さんには遠慮があるようで、今月初めに処方された薬が合わずに体調を崩し、嘔吐して寝込んだりしたのだが、その際に部屋に備えられている職員を呼ぶスイッチを押さず、だたひたすら気分が悪いのを我慢していたという。

今回は大事に至らずに済んだが、もしこれが急病で体調が悪化の一途をたどり、そのスイッチを押したくても押せないような事態になってしまったら生死に関わることだってあり得るのだから、次に体調が悪くなった際は必ず呼ぶように言い渡しておいた。

ショウコは体調を崩して以降、朝食後はおしゃべりもせずに部屋に戻り、ラジオ体操にも参加せず、部屋に引きこもることが多くなった。

施設に気に入らない人ができたのか、それとも友達の輪からはずれてしまったのかと心配したが、実はまだ体が本調子でなかったことに加え、こっちに来てからまだ一度も美容室に行っておらず、少し髪が伸びてきて白髪が目立つようになってきたので人前に出るのが嫌なのだと言う。

80を過ぎた婆さんが何を言っているのかと呆れるやら腹が立つやらだし、おしゃれ番長だとは思っていたが、まさかそんなに人目を気にしていたとは思わなかった。

とりあえずとなりの店の妹ちゃんにカットと毛染めの予約をし、タクシーも手配してやると意気揚々とやって来て、さっそうと店の中に入っていく。

独り言に書いたのは、その帰りに我が家に寄ったときの話しである。

いくら若く見えても寄る年波には勝てず、ましてや最近の環境の激変で年齢相応の記憶力になってしまったショウコだが、となりの店の妹ちゃんは見かけも若いし、話をしていても故郷からこの町に来るまでのことを事細かに話すので、実年齢より遥かに若く感じるという。

ずっとショウコを見てきた自分と『お買い物日記』 担当者は、たった 1-2年前と今とでは雲泥の差があって記憶力の衰えに戸惑いすら覚えるが、普通の人から見ればまだ実年齢より若く、しっかりして見えるというのだから、それほど悲しんだり憐れんだりする必要はないのかも知れない。

実際、今でも気持ちだけは若く、施設の隣室の女性のことを
「隣のお婆ちゃん」
などと呼んでいる。

80を過ぎた婆さんに婆さん呼ばわりされるほどの高齢であろうはずもなかろうが、ショウコにすれば自分と比較して相手の方がはるかに年寄りだと判断しているのだろう。

そして、エントランスでするおしゃべりにしても、
「同じ話を何回もする人がいる」
と言い、
「でもね、何回聞いても初めて聞いたふりをしてあげるの」
などと、偉そうなことをぬかす。

同じ話を何度も聞かされ、耳にできたタコが肥大化して落ちそうになっている自分としては、ショウコの耳を思いっきり引っ張って
「お前が言うなぁあああ!」
と選挙カーのスピーカーを使って怒鳴ってやりたい気分だ。

しかしまあ、急に老け込んで見た目も一気に婆さんになってしまうより、気持ちだけでも若い方がマシなのだろう。

先月の 19日は敬老の日だった。

本当は行く予定はなかったのだが、買い物のついでにショウコが好きそうなデザインのショルダーバッグを買ったので、敬老の日とかいう意識もなく施設に行くと、自分たちの姿を見たショウコの顔がパッと明るくなり、施設の人から
「来てくれて良かったね~」
と声をかけられていたとことみると、来ることを期待していたのかも知れない。

遠く離れていれば、年に何度かあるイベントごとは適当に茶を濁すことができる。

しかし近くに住むということは、こういうことなのだろう。

母の日、敬老の日、12月のショウコの誕生日などなど、その都度何かすることを期待されるのか。

・・・。

それを考えると、もの凄く鬱陶しくなってきた。

こんなことなら、歩いて行ける距離の施設ではなく、微妙に遠い場所にある施設の方が良かったのではないかと若干の後悔を覚えたりしている今日この頃である。

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