秋の味覚

食欲の秋である。

夏に食欲がなくなる訳でもなく、年がら年中腹を空かせているので秋になったからと言って特別なことなどないはずではあるのだが、やはり美味しい食材が出回るこの季節になると普段の数倍ほど腹の虫が騒ぎ出す。

大阪で過ごした 13年と 5カ月間、最初の 2-3年は夏バテし、食事もノドを通らなかった。

かろうじて体が受け付けるのは冷たい麺類。

来る日も来る日もソウメン、ウドンを食べていると今度は味に飽きてしまう。

薬味を変えてみたり、食べ方を変えてみたりしてみたが、とうとう麺の味そのものを体が拒否するようになってくる。

仕方無しにご飯を無理やり口に運ぶのだが、なかなかノドを通らない。

味噌汁で流し込むようにしていたが、驚くことに味噌汁でさえ飲み込むのが嫌になり、ついには何を食べたら良いものやら分からない状態に至る。

色々と試してみた結果、不思議なことに赤だしだけは抵抗なく飲めることが判明し、インスタントではなく赤味噌を購入して毎食の味噌汁を赤だしにして乗り切った夏もあった。

ある年からテレビの影響で毎日摂取する食べ物が少しずつ増え、その中のどれが効いているのか分からないが、夏バテを一切しなくなった。

どんなに暑い日が続き、冷房の空気が嫌いで除湿機能だけを利用して 34度前後の室内で生活しようと、滝のように汗が流れて眠れぬ夜を過ごそうと、時間になるとキッチリ腹が減ってモリモリ食べられる。

食べたそばから食物が熱エネルギーに変換されるのか、食事中は余計にダラダラと汗が流れ、食べ終わる頃にはサウナに 30分間くらい入っていたような状態になるが、それでも美味しく食べられ食欲減退とは無縁の生活を 10年ほど続けていた。

それでもやはり、暑さが過ぎて秋の気配が漂い、ジメジメとした空気から爽やかな風吹く季節を迎えると、それまで以上に食べ物が美味しく感じられたのは事実だ。

北海道で暮らしていた頃は本場でなかったことと、若かったこともあって興味を持たなかった食材も、大阪での生活で人に教えられたりして楽しみとなったものがある。

その一つは栗で、知り合いの方から毎年立派な丹波栗をいただき、美味しく食べていたので北に帰った今も秋になると無性に栗ご飯が食べたくなる。

こちらでは高級食材店にでも行かない限り立派な栗など一般に流通していないが、天津甘栗程度の大きさの栗であれば店で売られていることもある。

しかし、その流通量は極めて少なく、限られた店に限られた期間しか売っていない。

いつもこの時期になると買い逃してはならじと折り込みチラシに目を光らせ、虎視眈々と栗を狙っていたりする。

以前は流通網がそれほど発達していなかったこともあり、北海道の秋と言えば秋刀魚に秋鮭、ジャガイモにカボチャ、落葉きのこというのが定番だった。

それらすべては大人にとって嬉しい食材かも知れないが、子供の頃や若い頃は格別のありがたみを感じるものでは決してなく、むしろ地味な食べ物であって食卓にのぼっても喜ぶものではなかった。

しかし、今となってはそんな食材が美味しく、目の前に並ぶと嬉しくてたまらない。

先月はいただきものが多く、独り言にも書いたように冷蔵庫に入りきらないほど秋の味覚が充実していた。

その後に実家から送られてきたのはカボチャ大2個、ジャガイモ3kg、タマネギ3kg。

まだ一つ目のカボチャを食べきれずにいるところだが、今日の午前中に開催されていたイベントに顔を出し、先着順にもらえるズッシリしたものを受け取って中を見ると、カボチャが1個と 2kgはあろうかというジャガイモ、そしてニンジン数本。

二人で参加したので当然すべてが ×2だ・・・。

そんな訳で、我が家の食材はますます充実し、当分は食うに困らぬ生活ができそうである。