記憶 Memory-05

過去の記憶

あれは何歳のことだろう。

まだ幼稚園に入る前、確か三年保育だったはずなので、その前ということは 3歳か 4歳のはじめごろのことだろうか。

たった数日間のことだと思うが、入院をした記憶がある。

幼少の頃は小児喘息を患っており、それが悪化したか発作を起こしたために入院する事態になったものと思われる。

自宅にも吸入器があったが、それでは治まらないほどだったのだろう。

もちろん人生初の入院、見知らぬところで寝起きするのも初めてのことだったはずだが、両親共稼ぎで一人にされることには慣れていたので、入院を嫌がって泣くこともなかったはずだ。

むしろ周りに同じような歳の子どもがいるので嬉しかったように記憶している。

やはり子供用のベッドに寝かされていたのだろうか、記憶している映像には目の前に必ず檻のような柵がある。

その映像だと6人部屋の病室で、自分のベッドは入り口から見て右列の中央だ。

左隣り、入口に近いベッドに寝ている子は重い病気なのか、何人もの大人が周りを取り囲んで深刻な顔をしている。

看護師さんが何度も出入りして慌ただしく、容態も良くないのかも知れない。

そこに年配の医師が姿を現し、やはり深刻な表情で何かを告げると大人たちはゾロゾロと医師の後に続いて部屋を出て行った。

場所を移して病気についての説明を受けているのかも知れない。

大人が周りから居なくなり、ベッドが良く見渡せるようになると、そこには自分よりも小さく、まだ赤ちゃんと呼ぶにふさわしいのではないかと思われるほどの子供が寝かされていた。

その子の肌が異常な色をしていたのを今でもはっきり記憶している。

黒と表現すべきか赤と表現すべきか、とても濃い紫色と表現すべきか。

驚いて目が釘付けになり、ベッドの鉄柵を両手で持ってしばし固まっていたように思う。

左列の入口近くに居る子は濃いピンクか赤のパジャマを着ていたので女の子だったのだろう。

ベッドの上に立ち上がり、柵の上から覗くようにこちらを見ている。

6人部屋だったはずだが、自分を含めてその三人の記憶しかなく、残りのベッドにどんな子どもがいたのか、何色のパジャマを着ていたのか何も覚えていない。

もしかすると、その3人しか入院していなかったのかも知れない。

次の日なのか、数日後なのか退院することとなった。

入院して両親が病室を出る時には泣きもしなかったのに、退院の日には家に帰りたくないと大泣きし、また母親の逆鱗に触れて頭をペチンと叩かれながら病室を後にした記憶も脳の片隅に残ったりしているのであった。