マサルノコト scene 9

  以前に務めていた会社で仕事をしていると、受付の女性がとっても嫌そうな顔をして 「変なものが送られてきました」 と荷物を持ってきた。 まるで汚いものでも持つかのように、親指と人差し指でつままれた物体を受け取ると、それは血まみれのレスラーが表紙を飾るプロレス雑誌の束だった。

  ページが開かないように、背表紙以外はガムテープで固定されている。 そして、その雑誌に直接送り状が貼り付けられ、宅配便によって自分のところまで運ばれてきた訳だ。 送り主を見ると、そこにはマサルの名が記されている。 奴のことだから古雑誌を処分するついでに 「嫌がらせのつもりで送ってきたのだろうか」 などと真意を測りかねながら開封すると、そこには 1本のビデオテープが入っていた。

  まるでスパイ映画のように雑誌の中をビデオテープの大きさにくり抜き、ピッタリと収まるかたちでテープが入っている。 底の部分に手紙が入っており、そこには 「○月○日放送の映画を録画してくれ」 と書かれていた。 当時マサルの住んでいたアパートでは衛星放送が受信できなかったのである。 単にそれだけのことなのに、普通に荷物を送るのはつまらなかったらしく、わざわざ手の込んだやりかたで発送してきたらしい。

  もちろん帰宅後すぐに電話して 「くだらないことをするなー!」 と文句を言い、女性社員がどれだけ嫌な顔をしており、それによって自分まで変な目で見られることを伝えたのだが、「会社でのお前の立場をなくしてやる」 なんてことを言う。 「それだけはやめてくれ」 とすがってみたが、「むふふふ」 という不敵な笑いを残して電話が切れた。

  数週間後、受付の女性が 「また何か届きました」 と手に洗濯用の洗剤の箱を持ってやってきた。 前回の荷物の件が周りに知れ渡っていたため、今度は何事かと人がワラワラと寄ってくる。 今度は 『酵素パワーのトップ』 の箱に直接送り状が貼られており、その送り主には見るもおぞましいマサル名が記されていた。

  恐る恐る開封すると、中には普通に洗剤が入っている。 何のために洗剤を送ってきたのか、またまた真意を測りかねていたのだが、その箱が妙に軽いことに気が付いた。 嫌〜な予感がして調べてみると、箱の中に仕切りをつくり、中にビデオテープが収められていた。 わざわざ工作までして箱にテープを入れ、その上に仕切りを作って上の部分にだけ洗剤を入れて送ってきたのだ。

  もちろん帰宅後すぐに電話して 「二度とこんなことはしないように」 と言い渡したのだが、前回と同様に 「むふふふ」 という不敵な笑いを残して電話が切れた。 それからも手を変え品を変えて次々に変な荷物が送られてくるが、用と言えば 「○月○日放送の映画を録画してくれ」 というものばかりである。 会社でも、すっかり変な荷物が届けられることが有名になってしまい、次はどんな手口で送られてくるのか楽しみにする奴まで現れる始末だ。

  そしてある日、会社に会議用の机を梱包する 180cm x 120cm ほどの巨大な段ボール箱が送られてきた。 ちょうど会議用の机を手配していたこともあり、みんなのいる前で開封しようと思って運ぼうとすると、箱のサイズに見合わず鬼のように軽い。 もの凄〜く嫌〜な予感がして送り主を確認すると、そこにはマサルの名。

  なんと、巨大な箱の片隅に小さな仕切りを作ってビデオテープを収め、箱が変形しないように、所々に支柱まで作成してある手の込んだもので送ってきたのである。 周りの奴らはゲラゲラ笑うし、受付の女性からは冷たい目で見られる散々な思いをすることになってしまった。

  もちろん帰宅後すぐに電話して 「いい加減にしろー!」 と怒鳴ってやると、「あほー!規格外の荷物を送るのにどれだけ送料を払ったと思ってるんだー!」 と完全に逆ギレ状態である。 それからも荷物が送られてくるたびにマサルからではないかと怯え、マサルが衛星放送を受信できるようになるまで心安らぐことがない日々が続いたのであった。