マサルノコト scene 11

マサルと友人関係になったのは中学二年生のときだが、一年生のときから一方的にマサルのことは知っていた。 不良仲間にアキラというのがおり、そこそこ喧嘩も強かったので仲間から一目置かれている奴だったのだが、マサルはそのアキラを掃除用具であるホウキを振り回して追いかけていた。

廊下を歩いているとアキラが血相を変えて走ってくるので 「どうした?」 と声をかけたのだが、「あわわわ」 と訳の分からないことを言いながら一目散に逃げていく。 何ごとかと見ていると、後から走ってきたのは鬼のような形相をしたマサルだった。

アキラは恐怖で足がすくんでしまったのか、よほど慌てていたのか、階段を駆け下りようとしてバランスを崩し、途中にある踊り場で転んでいる。 そこにホウキを手にしたマサルが追いつき、何事かをわめきながらアキラをめった打ちし、普段は喧嘩の強いアキラから 「ゴメン!ゴメン!俺が悪かったから!」 と謝罪の言葉を引き出していた。

あのアキラがかなわないのだから、背が高く、体もごついその男は相当な奴なのだろうと思っていた。 そして二年生となり、近くの席にマサルの姿を見たとき、これはお近づきになっておいた方が良いのではないかという打算が働いたりもしたが、ニコニコしているエビス顔のマサルからは不良の持つ独特の雰囲気を感じない。 事実、マサルは ”超” が付くくらいの真面目人間であり、法律はおろか、校則すら厳守するような奴なのである。

最初に交わした言葉など忘れてしまったが、席が近かったこともあってすぐに友人関係へと発展し、クラブ活動などしていなかった二人は下校時に途中まで一緒に帰るのが常となった。 たまには街の中心部にある本屋などに立ち寄ったりしたが、そんな時もマサルは 「一度帰ってから」 と言う。『下校時に寄り道しない』 という小学生並みの原則を中学二年生になっても頑なに守り続けているような奴だ。

自分にはそんな考えなどさらさらないので、制服のままマサルの家まで一緒に行って着替えるのを待ち、それから街に繰り出したりしていた。 色々な店をブラついていると疲れるしノドも渇く。 そこで 「喫茶店に入ろう」 と誘うと、「喫茶店なんぞ不良の行くところだ」 などと言う。 それは制服のまま喫茶店に入ることなど平気なうえ、酒を出すような店にも普通に出入りしていた自分にとって衝撃的な一言だった。

とりあえず、ここはマサルの意見を尊重しておいたが、ノドがカラカラに渇いてきたので店頭でソフトクリームやらジュース類やらを販売している店を見つけ、「何か買おう」 と誘った。 ところが、そこでもマサルは浮かない顔をして 「買い食いは・・・」 と躊躇している。 ここはもう一押しだと思い、「疲れたよなー」 「ノド渇いたよなー」 と耳元でささやきながらマサルの周りをぐるぐると回ってみた。

「う~む」 と迷っているマサルに 「甘い物を摂ると疲れがとれるぞー」 と究極の台詞で誘ったりしてみたが、10分以上も悩んだ挙句に 「やっぱり買い食いはいけない」 と、その場からスタスタ立ち去ってしまった。 目の前が暗くなるとは、こういう時のことを指して言うのだろう。 一人だけ買ってノドを潤すのも気が引けるので、結局はマサルの後を追うことになってしまった。

こんなクソ真面目な奴と、当時不良だった自分がどうして友人関係を保てたのか今でも不思議ではあるが、何となく気があったのだろう。 そして、それからも現在に至るまでも腐れ縁とも言うべき関係は、まだまだ継続していくのであった。