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不遇の時代不遇の時代

小学校の何年生だったか忘れてしまったが、ある動きをすると胸に激痛が走る日が続いた。

普段の生活に大きな支障はないとはいえ、飛び跳ねたりしたときの着地、手の上げ下ろし動作の下ろすとき、あとはどんなときだったか思い出せないが、何かの拍子に右胸あたりがズキン!とくるので運動量が激しく暴れまくっていた子供時代においては、なかなか不自由な思いをしたものである。

今から思えば、簡単に折れて知らぬまに治ることで有名な肋骨、いわゆるアバラ骨にヒビでも入っていたのではないかと推測されるが、子供にそんなことが分かるはずもなく、少しくらい怪我をしたり、どこかが痛かったりしても、ちょっとやそっとのことじゃ親に言わなかったこともあって、その状態は半年以上も続いたように記憶している。

それがずっと痛い訳ではなく、ちょっとしたタイミングや体勢によるものなのが面倒であり、余計なトラブルを生む元凶ともなる。

その年の体育の授業で走り高跳びがあったのだが、胸に激痛が走るためなかなか上手に飛ぶことができない。

決して運動神経は悪くなく、むしろクラスでは能力に優れている方なのを知っている教師からは
「真面目にやれ!」
と叱られるのだが、踏みきって体を伸ばした瞬間に痛みが走るので、それが怖くて思い切って飛べなかったり、ヤケクソになって飛んだとしても痛みが走って空中で体が丸まってしまい、そのままボテッと落下してしまう。

とうとうシビレを切らした教師は耳を引っ張って
「どうして真面目にやらないんだ!」
と鬼のような顔をして怒る。

そこでやっと胸が痛いことを
「実は・・・」
と切り出すのだが、休み時間とかには元気に走り回っている姿を見ている教師は、引っ張った耳をグリグリひねって
「嘘をつくな嘘を」
と憎々しげに言う。

高跳びであれば、まだ飛び上がった瞬間だけ痛みに耐えれば良かったが、体育の授業にはさらなる地獄が待ち構えており、その思い出すのもおぞましい、生き地獄とも言えるほど苦しんだ内容とは縄跳びであったりする訳だが、一度のジャンプですら激痛を感じる身をもってして何度も何度も飛べるはずなどないのである。

いつもであれば縄跳びなど何の苦もなくすることができ、二重跳び、三重跳びまで友達に披露していた自分なのに、どんなに耐えたとしてもゆっくり三回ほど跳ぶのが限度で、それ以上は続けることができない。

そんな姿を見てツカツカと近寄ってくるのは例の教師で、怖い顔をしながら耳を引っ張って
「お前はどうして真剣にできないんだ!」
と叱られ、胸が痛いことを言っても
「ふざけるな!」
と一喝されるだけだった。

もともと運動が得意なことも、縄跳びができることも知っているのだから、それができないのは異常なことであると気づいてくれても良さそうなものだと大人になった今からであれば思ったりもするのだが、子供の頭ではそんなことに考えも及ばず、ただくやしい思いをしていた。

水泳の授業でもクロールは何とかなるのだが、平泳ぎの手の動作がダメだったようで、痛くて 2-3回しか水をかくことができない。

そこでも教師は容赦なく叱りつけ、胸が痛いという主張を最後まで信じてもらうことはできず、それまで何があっても図工と体育の成績だけは良かったのに、その学期では初めて通知表に 1をつけられた。

おまけに備考欄には 『体育の授業を真面目に受けない』 的なコメントがなされており、親からもこっぴどく叱られる羽目になってしまったが、大人には胸が痛いことを信じてもらえないと思い込んでしまった自分は、言い訳することもなくただ黙って説教を聞いていたのである。

まさにあの時は教師や親からは叱られ、友達に馬鹿にされるという不遇の時代だった。