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ため息ため息

子供のころ、ため息をつくと幸せが逃げると親に叱られたものだ。

それが本当かどうかは分からないが、ため息には良い効果もあると最近になって分かってきた。


  1. 自然と腹式呼吸となる
  2. 体内ホルモン分泌腺を刺激し、正常な分泌促進効果をもたらす
  3. 血流量が増加する
  4. 副交感神経が優位になり、リラックス効果が生まれる
  5. 脳が不安を感じる回数を減らすことができ、ネガティブな感情を軽減できる
  6. 脳と体に新たな酸素を供給してくれ活性酸素を取り去る

などが挙げられるが、やはり

  1. 副交感神経が優位になりすぎ自律神経が正常に機能しなくなってしまう
  2. 周囲にいる人を不快にさせてしまう場合がある

などのマイナス効果もあるので注意が必要だ。

かなり以前に勤めていた会社の上司は日に何度もため息をつく人だった。

仕事中はもちろんのこと、雑談をしている時、昼食の時間、宴会の席と、まさに所かまわずといった感じで、正確に数えたことなどないが出社してから退社するまでの間に 30回以上はため息をついていたのではないだろうか。

最初は体調が優れないのか、仕事に行き詰まっているのか、家庭でトラブルでもあったのかと心配したりもしたが、あまりにも数が多く、それも年がら年中とあっては単なる迷惑行為でしかない。

人のため息を聞くとこちらまで気分が暗くなり、それが異常に多いと不快以外の何ものでもないので、昔親に言われたように
「ため息ばかりついてると幸せが逃げますよ」
と言ってやったが
「ふんっ」
と鼻で笑ったかと思うと横を向いて
「はぁ~」
とため息をついたりしていた。

その上司のため息は有名で誰もがそれを鬱陶しく思っていたのは、ネガティブな要素が強くて聞くと士気の低下が著しく、仕事に力が入らなくなってしまうからだ。

本人は無意識にやっている癖なのだろうが、周りまで暗くなるような行為は避けていただきたい。

ため息の中にはポジティブ要素の強いものもある。

根を詰めてやっていた仕事や作業が一段落した時、何らかの達成感が得られた時などはため息が出るし、緊張状態から開放された時や心配事が解消した時は安堵のため息をつく。

そしてもう一つ、とても美味しい物を味わった時にでるため息だ。

少し前に世界中でブームになっている和食に関するテレビ番組を見たのだが、そこでは日本独特の出汁(だし)について語られていた。

和食には出汁を使う料理が多く、このうま味なしでは日本食は考えられないと言っても過言ではないという内容だ。

しかし、このうま味と言うのは微妙なもので、味の基本 5要素である甘味・塩味・酸味・苦味・うま味のうち、『うま味』を感じ取れるのは東洋人、それも敏感に感じ取れるのは日本人だけだという。

うま味物質のグルタミン酸ナトリウムは 1908年に池田菊苗が昆布から発見した。

それは甘味・塩味・酸味・苦味のどれにも属さないことから、日本では古くからうま味を基本味に加えて認識していたが、欧米ではうま味を味わう料理が発展していなかったので長らくうま味を除く 4基本味が支持され続けたらしい。

うま味の存在が認められたのはつい最近のことで、世界がやっと気付いた味ということになる。

それに加えてこのうま味、人類共通のリアクションを引き出す物質でもあるらしい。

テレビを見ているとヨーロッパの人たちが昆布と鰹でとった出汁に少し塩と醤油を加えたものを味わった時、多くの人の口から
「はぁ~」
とため息がもれる。

どんなに美味しいイタリア料理を食べてもため息はでないだろう。

世界三大料理である中華料理、フランス料理、トルコ料理を食べたところで
「うまいっ!」
とは言っても、心の奥底から湧き出るようなため息にはならないものと思われる。

和食だけが持つ、あの不思議で独特な味はなんだろう。

フランス料理にもフォン・ド・ヴォーやブイヨンなどという和食でいうところの出汁は存在するものの、基本は肉や魚と野菜を長時間煮込んで味を抽出するものだが、日本のかつお節、味噌、醤油などは発酵が基本で、それを作るまでに気の遠くなるような手間ひまがかけられている。

これまたヨーロッパで大人気、品薄になるほど売れに売れている『スリミ』、いわゆるカニカマにしても、魚をすり身にして調味料を加えて練り上げ、それを蒸して特別な製法でカニの身のような食感を作り出すという手間のかかった食べ物だ。

豆腐にしてもコンニャクにしても、かまぼこ、竹輪などの練り物にしても日本には手の込んだ食材が多い。

海外では肉や野菜などを切って調理するだけだし、葉や実を乾燥させた調味料を加えて味付けするだけの料理が圧倒的だが、日本の場合は使う食材、調味料そのものがすでに手間ひまがかけられている。

そんな和食を口にして出るため息は、安堵のものか、感動からか。

どうやら日本人の DNAが反応して美味しい日本の味にため息をつくのではなく、全人類共通の何かに訴えかける力がうま味にはあるらしい。