~ 先週からの続き ~
検査室に入ると左右の鼻に麻酔薬を噴霧され、
「ノドに流れるのは飲み込んでください」
と言われるままにゴックンと飲むと、その液体には強い刺激があったのでゲホゲホとむせ返ってしまい、それが口に逆流すると得も言われぬ味がしてひどく気持ちが悪く
「オエっ」
となっているところに情け容赦なく
「はい、もう一度」
と噴霧されるというSMのような光景。
そのまま数分間ほど放置されると、だんだんノドの感覚を失って唾液を飲み込むことすら困難になってくる。
たぶん飲み込めてはいるのだろうが、何せ感覚がないので自分のノドが動いていることも分からなければ唾液が通過した感覚もない。
そして、
「もう一度入れますね~」
と、さらに麻酔薬を噴霧されて再びゲホゲホむせる。
それから数分後、ついに検査医が登場し、胃カメラの先に滑りを良くするジェルを塗りながら
「口からのものより細い分、内部を撮影できる範囲が狭いので時間がかかります」
などとぬかす。
そんな話は聞いていないが、今さら
「こちとら気が短けーんだから口からにしてくんな」
などとも言えないので了承の返事をしようとしたところ、麻酔でノドが麻痺していて声帯までアホになているのか、『はい』と言うつもりが
「はひ」
と声が裏返ってしまう。
いよいよカメラの先が顔に近づき鼻の穴に挿入開始。
最初は簡単に進んだが鼻の奥からノドに差しかかるとき、麻酔が効いているのにもかかわらず痛みを感じるほどの違和感が続く。
あえて言うなら、鼻から水が入ってしまったときにツーンとする 16倍くらいの痛みだ。
そしてノドを通過する際にはやはり嘔吐感があり、
「オ゛エ゛ェェェ」
となってしまう。
看護師さんと検査医に
「ここが一番辛いところですからね~、がんばってくださいね~」
と励まされ、やっとの思いで危機を乗り越える。
確かにそこから先はスムーズで、カメラは一気に胃まで到達したようだ。
空気を送り込まれて胃が膨らんだりするのは前回と同じだが、ゲップのようにボコボコとノドを上がってこないのは管が細いおかげか。
検査医は手元の操作でカメラの位置とか角度を調整しているが、体内で何かが動く感覚というのは決して気持ちの良いものではない。
一通りの撮影が終わり、ズリズリと管を引きぬいて検査は終了。
最後にスポっと鼻の穴からカメラが出ると、ジェルなんだか鼻水なんだか分からないものがダラダラと流れ出るのでティッシュで必至に拭きとる。
医師の説明によると、ポリープの形状、色とも前回と大差なく、良性のまま癌化はしていないので大丈夫とのことで、腸との境目と食道の境目に炎症と突起がみられるものの、これは慢性胃炎であれば誰でもおこる現象なので心配はいらないと説明を受ける。
しかし、自覚症状などなかったので
「慢性胃炎なんですか?」
と聞いたところ、
「まあ、日本人の 90%くらいは無自覚の慢性胃炎ですから」
とのことなので少し安心する。
「経過は問題ありませんでしたけど、定期的に検査しましょう」
と言い渡されてしまったので、また来年も胃カメラ確定である。
健康診断をしている場所に戻り、最後は爺ちゃん医師による面談と触診だ。
血圧を測定すると上が 90の下が 72と低く、
「フラフラしないか?」
と訊かれてしまった。
実は以前から低血圧気味なのは指摘されており、たまにフラフラすることはあったが、その時は気にならなかったので
「大丈夫でふ」
と、まだ麻酔が効いて感覚のにぶいノドで答えておいた。
次に聴診器を当てての診断だが、胸の音を聴かれているときに脇腹がかゆくなり、コリコリっとかくと聴診器には大音響として聞こえるらしく、
「ちょっとかかないでいてね」
と言われてしまったが、背中の音を聴かれているときもかゆみを感じ、ボリボリとかくと
「腹をかかない!」
と叱られてしまった。
それで一通りの検査が終了し、着替えて帰るだけとなったが、相変わらずノドの感覚がなくて唾液を飲み込もうとするとゲホゲホむせてしまう。
仕方なしにトイレの洗面台に吐き出しすこと数回。
清算して病院を出ても感覚は戻らず、普段は絶対にしないことだが、帰宅するまでに何度か地面につばを吐いてしまった。
家に戻ってからも完全には感覚が戻らず、前日の午後9時から飲まず食わずでノドがカラカラに乾いているが水分補給できない。
それから 30分ほどして何とかスムーズに唾液も飲めるようになり、約15時間ぶりに水分補給。
・・・。
少しずつゆっくり飲んだコーヒーの味は格別なものがあった。