言葉の変遷 ~目次~
時代とともに使われる言葉は変わっていくものだが、とくにカタカナ読みの陳腐化は激しく、一昔前の読みで話そうものなら若者から失笑されること請け合いであり、どんなに若いふりをしていても一瞬にしてジェネレーションギャップを肌で感じてしまうのは間違いないことだろう。
今でも社名や看板に残っているのはヂーゼル、ビルヂングで、これは今となっては誰も発音しなければ表記することもなくなってしまい、すべてディーゼル、ビルディングに置き換わっている。
昔、アメ車の Mustangはムスタングと読んだものだが、今はマスタングが常識となった。
少し前にテレビなどで良く言われたのは、今はディスコと言わずにクラブと言うということだったが、2000年代初期のユーロブームに乗せたパラパラという日本発祥の踊りが大流行したのを最後に飲んで踊るクラブも、枝分かれして大人の社交場となったディスコも衰退し、今となっては店そのものが存在しないものと思われる。
男女が一緒にいるのはカップルであって、アベックとは言わなくなった。
グッドデザイン賞 (Good Design Award) を代表とする、何らかの賞を与えるイベントに冠する Award は、デザインアワード、クリエイティブアワードなど、アワードと読まれることが多かったが、最近になってアウォードと発音することが多くなってきたようだ。
メインはメーンと表記されることが多くなってきており、バリバリ昭和生まれの自分としては、森田芳光が監督し、薬師丸ひろ子が主演した 『メインテーマ』 が 『メーンテーマ』 では間が抜けているような気がするし、『宇宙戦艦ヤマト』 で沖田艦長が
「メーンエンジン点火」
などと言ったら力が抜けてしまいそうな気がしてしまう。
仕事をしている人はサラリーマンからビジネスマンへと変わり、働いているのは男だけではなかろうということで最近はビジネスパーソンと呼ばれるようになった。
昔はサラリーマンに対して女性社員は OL(Office Lady(オフィス・レディ)) と使い分けられていたが、男女雇用機会均等法、差別、格差の撤廃によって男女問わず使える総称が必要になったのだろう。
その OLも昭和初期まで BG(Business Girl(ビジネス・ガール)) と言われていたらしいが、さすがにそれを耳にしたことはないので、前述したヂーゼル、ビルヂングと同時期なのだろうか。
読みが複数あるものの代表例は、吸うと鼻やノドがスースーするメンソールで、タバコの商品名では 100%近くメンソールと表記されているが、もう一つのメントールという呼び名もガムやキャンディー、アロマオイルなどで広く使用されている。
いつまで経ってもどちらかに統一されることがなく、どちらを使っても失笑されたりバカにされたりしない不思議な呼び名だ。
最近になって変化を遂げているのが Artistで、アーティストと言われるのが今でも体勢を占めているが、一部ではアーチストと発音、表記されるようになってきている。
一般的な感覚としてはアーチストが古い表記で、小さな 『ィ』 が入るアーティストが新しいと受け止められるだろうが、逆のパターンもあるのだと実感したりしたところだ。
確かに、日本人には何でもかんでも小さな 『ィ』 を入れたがる傾向があるようで、髪を固めるジェル剤をデップと発音すると失笑されることが多い。
しかし、デップ(Dep)はデップであって、決してディップではない。
デスクトップ(Desktop)パソコンがディスクトップではなく、デパート(Depart)をディパートなどと言わないのと一緒である。
そして、日本人はろくに知りもしないくせにカタカナを使いたがる傾向にあり、平気な顔をして堂々と間違っていることも多い。
最近特に多いのはフィーチャーをフューチャーと言う間違いだ。
音楽でよく使われるのだが、曲のタイトルなどに付けられている A featuring B は、フィーチャリングであってフューチャリングではない。
Aさんの曲に Bさんがフィーチャーリング(featuring(客演))するという意味で、それはフィーチャー(feature(呼び物、聞き物))であって、フューチャー(future(未来))することなど文法的にもあり得ないのである。
オッサンが若い二人を見てアベックと言うのを笑う前に、知ったかぶりをして妙なカタカナを使うのをやめていただきたいものだ。