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ワンプの話ワンプの話

独り言に何度も書いている狸顔の犬、名をワンプという。

ワンプのほし』 という絵本に描かれている平和な星に暮らす草食動物であり、犬を指す名前ではないのだが家にやってきた当時はまだ小学生だった息子さんが命名したのか、奥さん、または他の家族が命名したのか、犬は謎の生物と同じ名を持つことになってしまった訳である。

奥さんの知り合いの家で飼われている犬が子を産み、貰い手を探していたので生後間もない子犬を引き取ったらしい。

血統書などなく、単なる雑種なのだが実に可愛らしい顔をしている。

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その容姿、ワンプという名の響きからオスだと思われがちなのだが、実のところは家族に愛される箱入り娘なのである。

普段は家の庭にある小屋で飼われているが、冬の寒い時期になると家の玄関に入れてもらい、下に使い捨てカイロ入れてもらったポカポカと暖かいマットの上で丸まっている。

ワンプはとても大人しい犬で、ここに住んで二年以上になるが、数えるほどしか吠えたのを聞いたことがない。

誰に対しても激しく吠えたり威嚇するような吠え方をしないので、きっと番犬という役は務まっていないだろう。

最初は隣の家の敷地ギリギリの所から犬の姿を探し、目が合うと手を振ったりして交友を深めていたのだが、奥さんから敷地への立ち入りと犬との交流を許可されたので、今は散歩から帰ってくるたび、毎朝のように庭の犬小屋まで行って声をかけている。

旅行などで家を留守にするときは、奥さんの実家に犬を預けて出かけるのだが、
「散歩くらいなら連れて行ってあげるのに」
と、いつも 『お買い物日記』 担当者と話しをしていた。

それを奥さんに告げると
「それじゃあ」
ということになり、まずは慣れさせるために日課の散歩に同行させてもらうことになった。

触れたり散歩するようになって気づいたのだが、このワンプ、犬としては実に変わっている。

吠えないのは人に対してだけではなく、他の犬に吠えまくられてもツンとしており、まったく我関せずといった感じで無視するのである。

何度目かの散歩ではワンプが急に立ち止まり、一箇所をジーッと見ているので何かと思ったら、その視線の先で子猫が固まっていた。

犬と猫といえば仲が悪い代表格のような存在だと思うのだが、子猫はまだ犬の怖さを知らないのか、怯えて動けなくなったのか、身じろぎもせず目を見開いて見ており、ワンプも猫を追う訳でもなく、吠えかかる訳でもなくジーッと見つめていた。

そしてこのワンプ、犬だというのに尻尾をふって甘えるようなこともしない。

普通、これだけ仲良くなれば顔を見かけたりした際に尻尾を振って吠えるなり、愛想をふりまくなりするのが犬というものだが、ワンプはそばまで行っても横目でこちらをチラ見する程度で尻尾はユラリともしない。

そして、それは飼い主に対しても同様で、奥さんが近づいても声をかけても尻尾をふって甘えるようなことをしないのである。

散歩から帰ってきて少し遊ぶこともあれば、プイッと小屋に入ってしまうこともあり、奥さんは
「本当に気まぐれなんだから」
と困った顔をしている。

その性格や行動は、犬というよりも猫のように気まぐれだ。

何度か一緒に散歩してお互いにかなり慣れた昨日の 7月23日、隣は奥さんが遠くまで出かけ、ご主人は酒宴があって帰宅が遅くなるとのことで、夕方の散歩を任されることになった。

『お買い物日記』 担当者と自分は朝から楽しみにしていたのだが、問題は、そんな気まぐれワンプが一緒に散歩してくれるかどうかだ。

小さな雨粒がポツリポツリと落ちる決して良くないコンディションの中、恐る恐るワンプの首輪にリードを付け、少しだけ引いてみたところ、実にあっさりと小屋から出てトコトコと歩き出した。

いつもは真っ直ぐ散歩に行くのに、少しだけ家の玄関に立ち寄って奥さんが来ないのか確認していたが、人の気配がないことが分かると何かを吹っ切ったようにスタスタと歩き出した。

そしていつもより 500メートルほど短く近所を回って帰宅した。

我が家とワンプの飼い主ぬきでの初散歩。

これからも帰りが遅くなる日や一泊程度の外泊の際にはワンプを散歩に連れて行き、ちょっとだけ飼い主気分を味あわせてもらえそうである。

ワンプ