ショウコトレイコノコト 3

我が母ショウコが一人暮らしを続けることを断念したのは昨年10月のこと

ついては施設を探してほしいとのことだった。

この街の自治体に連絡し、窓口で説明を受けて地域包括支援センターの存在を知り、早々に連絡してみたところ、対象者、つまりショウコが現在どういう状態であるかを確定する必要があるとのことだった。

その状態とは、支援が必要か、介護が必要か、そして必要な場合はどの程度かという、いわゆるランクのようなものである。

数年前にショウコは『要支援 1』だと認定されているが、骨粗しょう症による背骨の圧迫骨折を機に右下半身の痛みで歩行に支障をきたし、行動範囲が狭まって運動不足におちいり、ますます筋力が低下するという負のスパイラルが続いていたので、ランクは上がっていると予想された。

また、施設への受け入れは介護度が高い人ほど優先されるので、『要支援 1』では受け入れ先が極めて少ない。

そこで昨年の 10月に故郷の自治体に連絡し、要介護認定の申請をして審査が実施されたのが 11月。

結果がでるまで 3カ月程度と聞いていたので今年の 1月下旬か 2月になるだろと予想された。

昨年末に帰省した際、結果は 1月中に届きそうか確認したところ、
「もう来てるよ」
などとツラっと言ってのけるショウコだ。

あれだけ真剣に話し、ショウコの住む街の担当者ともやりとりしたのだから、結果が届いたなら何をおいても真っ先に知らせるのが筋というものではないだろうか。

さすがに母子だけあって、自分と同じように合理主義的なところがあるショウコにしてみれば、どうせ年末になれば会って話せるのだから電話連絡する必要はないと思ったのかもしれないが、それにしても何か一言くらいあっても良いだろうなどと腸が煮えくり返るような思いを抑えつつ封筒から取り出した書類に記載されていたのは『要支援 2』の文字。

以前と比較するとあれだけ弱っており、様々な病歴も増えてまともに歩けなくなってしまったので当然の事ながら『要介護』になるものと思っていただけに大きな戸惑いを覚えた。

それだけ元気な証拠と喜ぶべきなのかもしれないが、一段階ランクが上がったとは言え『要支援』では受け入れてくれる施設が一箇所しかなく、昨年末に確認したところその施設は入居待ちが 26人という状況だ。

それだけの順番を待つとなると間違いなく年単位の時間が必要となるだろう。

もう一人暮らしはしたくないというショウコをいつまでも待たせる訳にはいかない。

そうなると施設を予約しつつこの街に呼び寄せて入居できるまでの間、同居という選択肢はないのでサ高住と言われるサービス付き高齢者向け住宅にでも入居させるしかないものと思われる。

しかし、そのサ高住ですら入居待ちになっている可能性が高いので不動産屋さんに問い合わせなければならない。

その前に地域包括支援センターにショウコが『要支援 2』と認定されたことを伝え、ショウコの年収(年金受給額)などを加味した上で入居可能な施設を絞り込んでもらい、空き状況によっては順番待ちのリストに加えてもらうという作業も必要だ。

頭では理解しているのだが、正月早々にやることでもあるまいと今週はずっと放置していたが、来週になったら少しずつでも行動しなければならないだろう。

この話と関連するもう一つの懸案事項。

帰省の際に叔母のレイコの家にも遊びに行き、ショウコが街を出た後のことについて話をしてきた。

耳鳴りがひどくなってきたのか、会話をするには以前よりも大きな声をださなければならなくなってしまったが、それ以外に大きな問題もなく達者に暮らしている。

股関節が痛いと言った時にはさすがに足に来たかと思ったが、実は数日前に屋根の雪下ろしを何時間もやったとのことで、相変わらずのスーパー婆さんぶりを発揮しているようだ。

そして、いつものように一緒の街で暮らそうと言ってみたが、
「私は人の世話をするのには慣れているけど、人の世話になるのには慣れていないのよ」
などと言って首を縦に振らない。

「嫌だったら世話なんかしてやらないから」
と言おうと
「とりあえずはすぐに会える距離に住んでくれたら安心なんだけど」
と説得しても聞く耳をもたいレイコだ。

それでも今回、同じ街に住むことを提案しているのが自分たちだけではないということを知り、少しだけ安心することができた。

ショウコやレイコのきょうだいの息子や娘、つまりはレイコにとっての甥や姪が同じようにレイコを心配し、こっちに来ないかと声をかけているという。

レイコと違う籍を持つ自分より、同じ籍を持つ甥や姪のほうが遠慮も少ないだろうし、レイコがそれを選ぶなら仕方がないとは思う。

しかし、以前の雑感に何度となく書いたように、幼い頃から世話になったレイコにはひとかたならぬ恩義を感じているし、幾度となく自分を助けてくれたことに深く感謝している。

できることであれば、この街でレイコが余生を過ごしてくれることを願ってやまないが、いったいどうなることだろう。